沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 9月号

都道府県医師会個人情報保護担当理事連絡協議会

常任理事 大山 朝賢

去る7月13日(木)、日本医師会館において 標記協議会が開催されたので、その概要につい て報告する。なお、当日は、日医が医療機関に おける患者等の個人情報の保護と利活用を図る ために制定した二つの指針「診療に関する個人 情報の取扱い指針」、「診療に関する相談事業 運営指針」の内容を中心に説明が行われた。

日本医師会 唐澤人会長挨拶

唐澤日医会長より、概ね次のとおり挨拶があ った。

個人情報保護法が昨年4月に施行され1年が 経過し、実際に運用してきた中で、社会のあち らこちらで種々の問題点が生じてきており、医 療分野においては、厚生労働省では法律の全面 施行に合せて作成した「ガイドライン」や 「Q&A」の一部見直しを行ったところである。 一方、本会では法律の施行に先駆け、医事法関 係検討委員会と診療情報の提供に関する指針検 討委員会との合同委員会において、会員医療機 関に向けて個人情報保護の取り組みの助けとな る解説書「医療機関における個人情報の保護」 を作成した。同合同委員会においては、その後 も引き続き精力的に活動を続けた結果、今般 「診療に関する個人情報の取扱い指針」、「診療 に関する相談事業運営指針」の二つの指針が 完成した。同指針は、既に各都道府県医師会並 びに郡市区医師会へお送りしたところである が、本日の連絡協議会で皆様に一層のご理解を いただくとともに会員への指導により各医療機 関で個人情報の保護を更に適切に対応していた だきたい。日医からは、日医雑誌に同封する形 で二つの指針を会員へお送りする予定である。

個人情報の全面施行後の状況について

日本医師会参与の奥平哲彦先生(弁護士)よ り説明があった。

内閣府より、平成18年6月に平成17年度個人 情報の保護に関する法律施行状況についての概 要が出された。個人情報保護法における罰則規 定が、事業者がとるべき措置を行わなかった場 合、主務大臣の是正勧告、是正措置命令、それ でも従わない場合に6ヵ月以下の懲役または30 万円以下の罰金刑に処するという罰則規定とな っており、平成17年度の各主務大臣による権限 行使の状況が、報告徴収50件、勧告1件である。 そのうち金融庁長官による報告聴取が2件、勧 告が1件、総務大臣による報告徴収が48件、厚 生労働大臣による報告徴収が1件となっている。 この勧告1件というのは、新聞報道等でご存知 のとおり、みちのく銀行が131万件の顧客情報 が入ったCDを紛失してしまった事案である。

また、事業者が公表した漏えい事案(平成17 年度)の件数が1,556件で、そのうち事業者に よるものが1,225件(不注意96.6%)、第三者に よるものが268件(故意87.6%)、その他51件 となっている。

また、個人情報保護法では、各事業者の団体 別に認定個人情報保護団体を作ることを要請し ており、現在30件の団体が認定されている。そ のうち厚生労働省による認定が7団体で、主な 団体は、全日本病院協会、日本製薬団体連合と なっている。

この他、法律施行後の状況としては、次の事 項があげられる。

  • 1)個人情報保護に対する国民意識の高まり
  • 2)事業者の取り組みが進んでいる中で、「過剰反応」も見られる
  • 3)漏えい事案の続出
  • 4)「匿名社会」化に対する懸念(公務員人事 情報、警察発表の匿名化、学校・病院の 対応など、公や民の個人情報のだししぶり に対する反発)

こうした状況を踏まえ、平成18年2月28日、 個人情報保護の円滑な推進に関する「個人情報 保護関係省庁連絡会議申し合わせ」が示され、 本人からの同意を得なくても個人情報を提供で きる場合の例を挙げた。(内容については、診 療に関する個人情報の取扱い指針で纏められて おり、後述する)この他、厚生労働省の「医 療・介護関係事業者における個人情報の適切な 取扱いのためのガイドライン」の改定並びに同 ガイドラインのQ&Aの改訂が行われた。

個人情報保護法の今後の見通しは、現在国民 生活審議会の個人情報部会で検討しており、平 成20年の通常国会に第一次改正をする方向で 進められている。医療については、金融、情報 通信とともに特に適正な取扱いを確保すべき分 野として個別法を制定すべきとする考え方が未 だ残っており、今後注目されるところである。

「日本医師会診療に関する個人情報の取 扱い指針」と「日本医師会診療に関する相 談事業運営指針」の制定の経緯について

今村定臣日医常任理事から、これまでの日本 医師会の取り組みとして、平成16年8月に医事 法関係検討・「診療情報の提供に関する指針」 検討合同委員会を設置、平成17 年3 月に冊子 「医療機関における個人情報保護」、「利用目的 に関する院内掲示ポスター」を全会員へ配布し た旨説明があり、引き続き標記指針の制定の経 緯について次のとおり説明があった。

個人情報保護法では、個人情報取扱い事業者 に対する指導や苦情の対応等の業務を行う認定 個人情報保護団体に関する規定が設けられてお り、日本医師会は当該認定団体になるべきかど うか、仮に認定団体になるとすれば、どのよう な準備が必要かという議論を行い、その結論を平成18年2月に報告書「診療に関する個人情報 の適切な取扱いを推進するための体制整備につ いて」にまとめた。その内容は、委員会として の提言部分に加えて、本日説明する二つの指 針、個人情報の取扱いの指針と苦情相談への対 応に関する指針を制定すべきであるとしてそれ ぞれの案を提示した。提言部分については、認 定個人情報保護団体の問題について合同委員会 で検討した結果、その是非について日医執行部 が自ら判断するべき事柄と結論づけたが、個人 情報保護法で定められている認定団体が行うべ き取り組みには、患者の個人情報を守り、信頼 関係を高めていくうえで意義のある内容である ので、日本医師会が認定を取得するかどうかは さておいて、認定団体になる場合に求められる 事と同じレベルの取り組みは自主的にしっかり 行っていくことが望ましいとし、日本医師会が 医療の専門職の団体として会員が遵守すべき標 準的な指針を制定すること、また患者さんから の苦情相談にもしっかり応じられる体制を構築 していくべきことを報告書で提言した。

当該報告書の二つの指針については、平成18 年3月14日の理事会で日医指針として制定、そ の後、3月24日に各都道府県医師会並びに郡市 区医師会へ送付したところである。同指針の今 後のスケジュールは、日医雑誌の9月号、又は 10月号に同封して会員へ送付、また、日医ホー ムページに会員の皆様がダウンロードできる形 で掲載する予定である。相談事業については、 都道府県医師会から日医に対して苦情相談事例 を報告する際の書式や方法等細かい事務手続き を定め、10月中頃には全国に通知したいと考え ている。各医師会においては、説明会等の開催、 会報への掲載等、会員への周知をお願いしたい。

「日本医師会診療に関する個人情報の取 扱い指針」について

日本医師会事務局の伊澤課長補佐から、標記 指針の全体の構成について説明があり、引き続 き、同指針は、個人情報の「保護」と「利活 用」のバランスに配慮したこと、また、法令、厚労省ガイドラインに準拠した内容となってい ること、「医療機関における個人情報の保護」、 「院内規則」との整合性を図り、「診療情報の提 供に関する指針」で構築した枠組みを活用し、 医師会の自立的な指針として制定した旨説明が あった。その後、個人情報の利用目的の通知、 変更、診療記録等の取り扱いと保管、利用等に ついて、これまで冊子「医療機関における個人 情報の保護」でも説明してきた内容も含めて具 体的に説明があった。ここでは、その中から、 現在特に問題となっている部分を含めて幾つか を報告したい。

○利用目的の通知、変更

・個人情報の取得前に利用目的を公表している ところであるが、利用目的を変更するときに は、改めて院内掲示等で周知し、もとの利用 目的から大きく外れてはならない。

○診療記録等の取り扱いと保管、利用

・医療機関内でのルールにもとづいて管理し、 個人情報の無断持ち出しは厳禁。

・診療記録等の修正(正確性の確保=法19条) については、改ざんとの誤解を受けない方法 で行う。修正の痕跡を残すこと。修正液の使 用は厳禁。

・匿名化による利用。

・受付、待合室での氏名の呼び出し、ベットネ ーム、病室の氏名札の掲出など、プライバシ ーの問題については、患者からの要望があれ ば応じることが望ましいが、安全な医療の実 施を最優先に判断すること。

・コンピュータ記録の場合、大量の情報が瞬時 に亡失、盗難、流失する危険が高いので、外 部からの不正侵入に備えて防護壁の構築、デ ータバックアップにより、不注意や機器故障 による記録の滅失の防止。データの安易な複 製の禁止。(厚生労働省「医療情報システム の安全管理に関するGL」を参照)

・保険会社等に対する提供については、委任状 だけで判断しない。

・友人、知人、親戚などは、基本的には第三者 であり、本人の同意が原則であるが、状況に応じた対応が望ましい。

○本人の同意を得ずに提供してよい場合

1)法令に基づく場合

・司法機関等からの照会への回答
・医療関連法規に基づく検査、報告
・児童、老人虐待、配偶者暴力の通報

2)人の生命、身体、財産の保護の必要があり、 本人同意が困難な場合

・意識不明、認知症などの患者の家族等への病状説明
・大規模災害時などの安否情報の提供

3)公衆衛生の向上、児童の健全な育成推進のた めに必要があり、本人同意が困難な場合

・地域がん登録への症例報告
・児童虐待、非行、いじめ等についての関係機関との連絡

4)国等への法令に基づく事務への協力

・統計調査への協力
・救急隊活動記録作成のための消防への協力

「診療に関する個人情報の取扱い指針」の構成

  • 1 総則
  • 2 個人情報の取得
  • 3 診療記録等の取扱いと保管、利用
  • 4 個人情報の第三者への提供
  • 5 個人情報の本人への開示と訂正、利用停止等
  • 6 苦情・相談への対応
  • ※ 附則
  • ※ 書式
「日本医師会診療に関する相談事業運営 指針」について

伊澤課長補佐から、標記指針について次のと おり説明があった。

日本医師会では、「診療情報の提供に関する 指針」(平成11 年4 月制定、平成14 年10 月改 定)に基づき、すでに都道府県医師会と一部の 郡市区医師会に設置されている「診療に関する 相談窓口」および「診療情報提供推進委員会」 等に関する取り組みを、個人情報保護の問題にも適切に対処できるよう、「診療に関する相談 事業」として体系化することとし、標記運営指 針をまとめた。

「診療に関する相談事業」は、日本医師会、 都道府県医師会、郡市区医師会が診療に関する 苦情相談を受け付け、適切な対応を図ることに より、医療機関、医療関係者と患者とが、より 深い信頼関係で結ばれることを目的としてい る。それには、認定個人情報保護団体がおこな う「苦情処理」に相当すること、また、診療に 関する困りごとを一通り受け、できるだけ多く の窓口を、患者が利用しやすいように開き、相 談のアクセスを保証することとしている。医療 機関は、患者から受け付けた苦情・相談が、院 内での対応によってきわめて解決困難であると 判断した場合には、患者に対して、医師会の相 談窓口や行政が設置する相談窓口等を案内、も しくは医療機関自ら相談するものとする。

診療情報提供推進委員会については、取り扱 う内容として、これまでの「診療情報提供」関 係だけでなく、「個人情報保護」に関する事案 を加えることとしている。また、付託された事 案を審査するために必要がある場合は、患者、 相談者、当該医療機関の関係者等から事情を聴 取し、資料の提出を求めることができるとし、 これを拒否する正当な理由がないかぎり、協力 しなければならないとする規定を設けている。 また、受付担当者のフォローアップとして、日 医、都道府県医師会、郡市区医師会が協力し て、教育・研修を行うこと、苦情・相談の受付 業務による精神的ストレスへの対処についての 規定も設けた。

「診療に関する相談事業運営指針」の構成

  • 1 総則
  • 2 「診療に関する相談窓口」
  • 3 「診療情報提供推進委員会」
  • 4 「日本医師会診療情報提供推進委員会」
  • 5 教育・研修および支援
  • ※ 附則
上記二つの指針の「施行日」について

今村常任理事から次のとおり説明があった。

指針の施行日については、指針の附則の中 で、制定の日から1年を超えない範囲内におい て別の定める日から施行すると定めていたの で、会員への周知期間等を考慮し、去る5月30 日の常任理事会と6月20日の理事会において、 それぞれの指針の施行日を平成19年1月1日と することについて審議し決定した。今後、都道 府県医師会と協力して会員への周知を図ってい きたい。

質疑応答

今村常任理事と奥平弁護士(法律に関する事 項)から、資料に基づいて、予め各都道府県医 師会から寄せられた質問等に対して次のとおり 回答があった。

質問1)会員名簿について

回答:医師会の会員名簿は医療連携のために必 要であり、非常に公益性の高いものであ る。会員名簿の作成については、会員の 承諾を得る方法として、新規入会の際に 了承を得ることが出来る。また、既に入 会している会員には、名簿作成の目的、 名簿の内容、提供方法、本人の求めによ り名簿から削除できる方法等を本人に郵 便、電話、電子メール等で通知するか、 或いは医師会のホームページ、会報への 記載によって本人が容易に知ることがで きる状態に置く等の方法によって同意に かわる措置をとることが必要である。

質問2)弁護士法第23条の2の照会や警察からの 捜査関係事項照会について

回答:法令に基づく場合にあたり、本人の同意 を得ずに提供できる。しかし、個人情報 保護法上違反ではないが、提供すること によって関係当事者からプライバシーの 権利の侵害等で民事上の不法行為の損害 賠償請求が成立する可能性がないとはい えないので、慎重に検討し対応しなくて はならない。

質問3)病院又は診療所が廃止された場合の診療 録の保存について

回答:医師法上の特段の定めはない。昭和31年 2月11日、医発105号の行政通達による と、個人開業の管理者である医師が死亡 した時、遺族は診療録の保存義務を承継 しないとされている。更に、昭和47年8 月1日、医発1113号によると、廃院時に 保存義務を負う管理医師がいない場合 は、廃院後の診療記録などを県、又は市 等の行政機関で保存することが適当とさ れている。

診療録等のコピーを求められた時は、当 該保健所の医師において、本人確認等の 手続きを行い、開示の適否について慎重に 判断のうえ対応することが必要である。

質問4)警察等からの捜査協力依頼について

回答:厚生労働省ガイドラインによると、協力 は任意であるが、法令上の具体的根拠に 基づいて行われるもので、個人情報保護 第23条第1項第1号の法令に基づく場合 に該当すると考えている。しかし、これ も個人情報保護法上違反ではないが、民 事上の損害賠償請求の対象とされるおそ れがまったくないとはいえない。

質問5)弁護士法照会への回答について

回答:弁護司法第23条の2に基づいて、所属す る弁護士会を通じて必要な報告を求める ことができるとされていることから、弁 護士会への回答については、法令に基づ く場合にあたる。しかし、これも損害賠 償請求を受ける場があるので、個別事例 ごとに慎重に判断する必要がある。

質問6)税務調査におけるカルテ閲覧について

回答:税務職員が、法人税、所得税等に関する 調査について必要がある時は、法人等に 質問し、又はその帳簿書類等を検査する ことが出来るとする法人税法第153条第 1項、所得税法第234条第1項などの規定 に基づいて行われるものである。当該カ ルテは帳簿書類に含まれると考えられ、当該税務調査に必要な範囲内で検査に応 じる必要があると考える。

質問7)患者等からのレセプト開示請求について

回答:レセプトを個人データとして保有してい るのは保険者であるので、保険者へ開示 請求することを案内していただきたい。

質問8)保険指導におけるカルテ提出と個人情報 保護法について

回答:法律第23条第1項第1号「法令に基づく 場合」、又は第23条第1項第4号「国の機 関若しくは地方公共団体又はその委託を 受けた者が法令の定める事務を遂行する ことに対して協力する必要がある場合 〜」のいずれかに該当し、個人情報法違 反にはならないと理解する。

総括

日医竹嶋副会長から、二つの指針は、植松前 日医会長の諮問を受け、村山博良高知県医師会 長を委員長とする二つの委員会が精力的にまと めた。現執行部は、これを引き継ぎ、実践してい きたいので、各都道府県医師会において会員へ の周知をお願いしたいとの挨拶があり閉会した。

印象記

大山朝賢

常任理事 大山 朝賢

今回の連絡協議会の趣旨は、日本医師会の合同委員会で1):診療に関する個人情報の取り扱い 指針と2):診療に関する相談事業 運営指針等を製本したことから、去年3月配布された「医療 機関における個人情報の保護」の周知徹底にあった。これら1)、2)の出版物は各医師会員に医師 会雑誌と一緒に送付されるという。個人情報保護法が平成17年4月1日施行されてから1年以上経 過した。医師会の合同委員会は「診療情報の提供に関する指針、第2版・平成14年10月出版」を 基盤にして個人情報保護法は出来ているというが、松原日本医師会前常任理事の沖縄での講演で は、若干不明な点が無きにしも非ずであった。「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な 取り扱いのためのガイドラインに関するQ&A」(事例集、平成17年3月、厚労省)がでて、保護 法の解釈はより具体的になったと思う。しかし個人情報保護法の「過剰反応」ともいわれる不具 合な事柄がでてきたので、「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取り扱いのためのガ イドラインの一部改正等について」が今年2月の関係省庁連絡会議で取り上げられ、法令一部改 正となっている。この点に関して、今回沖縄県医師会報7月・号外として各施設に一冊ずつ配布 されていますので、112頁以下を読まれることをお勧めします。1)および2)等は平成19年1月1日 より施行されます。

日本医師会館では今村定臣日本医師会常任理事、奥平哲彦弁護士・日本医師会参与、伊澤 純 法学博士・医事法制課課長補佐等ご三方による説明がありました。来る11月16日(木)、ハーバ ービューホテルでの県医師会主催・「1)と2)を含めた個人情報保護法の説明会」には、有難い事 にこのご三方がこぞってお見えになる予定です。唐澤先生が医師会長になられてから、地方での 説明会としては全国でも初めてとか、会員の皆様ふるってご参加ください。

ところで県医師会理事会での報告事項として上記の報告をした際、司法関係(裁判所、警察、 弁護士)からの問い合わせにどう対応したらいいものかとの発言があった。可及的文書が望まし いが、「電話の時は?」の質問に玉井理事は次のように答えました。「悪質な不正を防止するため に、一旦電話をきり、それから電話をかけ直して対応する」でした。11月16日の説明会ではフロ アからのご質問をどしどし下さい。