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メディア漬けと子どもの危機

玉那覇康一郎

小児クリニックたまなは  玉那覇 康一郎

去る5月に「沖縄県小児保健学会」に参加す る機会がありました。そこで「人間になれない 子どもたちーメディア漬けと子どもの危機―」 という興味あるテーマの特別講演がありまし た。講師は清川輝基氏でNPO法人「子どもと メディア」代表理事です。その中で印象深かっ た事を書いてみたいと思います。

最近、毎日のように子どもたちに関わる殺人 事件のニュースがあります。どこでどんな事件 であったのか、日が経つにつれて忘れてしまう ほど、次から次へと新しい事件が発生していま す。幼児を駐車場の建物から突き落としたと か、同級生の女の子の首をカッターで切ったと か、パチンコに夢中になり、車中の乳児を熱中 症にしたとか・・・。

清川氏は、これらの事件はテレビ、テレビゲ ーム、ケータイ、漫画、インターネットなどの メディア環境に深く関わりがあると分析してい ます。こうすれば人は傷付く、死んでしまう、 そういう事をすると自分はどうなる、家族はど うなる・・・という思考過程が欠如しているの だと言います。

テレビやテレビゲームを見ている時の脳波 と、読書や会話をしている脳波では活動場所が 全く違います。テレビでは視覚中枢の後頭葉が 主に働いており、人間の感情や行動をコントロ ールしたり、想像力を司る前頭前野はほとんど 機能していないことが分かっています。その点 読書や会話においては、前頭葉が活発に働いて いるのが脳生理学で証明されています。

従って、テレビ漬け(メディア漬け)の結果 が今日の事件多発に大いに関係していると言い ます。言葉の訓練が出来ていないため、言葉で説明する前にすぐ手が出てしまう「新しいタイ プの言葉遅れ」、外遊びが少なく、家でファミ コンに明け暮れる「人間関係がつくれない子ど もたち」が急増しているという事です。最近、 表情がない、言葉が遅い、視線が合わない、テ レビを消すと嫌がる、一時もじっとしていな い、呼んでも振り向かないなど、特徴的な症状 の乳幼児が目立ってきているようです。

そこで「メディア漬け」の4つのチェックポ イントがあります。1)乳幼児からテレビやビデ オに子守をさせていた、2)朝から晩までほとん どテレビをつけっぱなしの生活をしている、3) 子どもが早期教育ビデオにはまっている、4)両 親ともそろってテレビ好き。このようにメディ ア漬けが、子どもの発達障害である「テレビ・ ビデオ育児症候群」につながり、今日の様々な 事件と深く関わっているのではないかと危惧し ているのです。

文部科学省もこれらの現象を懸念しており、 「早寝早起き朝ご飯、テレビを消して外遊び」と いう文言で警鐘を鳴らしています。一昔前には 当たり前の習慣でしたが、その習慣が今やほと んど薄れてきています。清川氏はまず、「ノーテ レビデー」(月に1日、朝から晩までテレビを見 ない日を作る。)を設定することで、徐々に子ど もたちは変わっていくと言っています。その習 慣の復活こそが将来を担う子どもたちを健全に 育成していく根本的課題だと捉えています。

1999年に米国小児科医会が「2歳まではテレ ビ見せるべきではない」と強く警告しており、 2003年には日本小児科医会も同様なポスター を作製しています。「メディア漬けから抜け出 して、遊びや仲間づくり、自然体験や文化活動 などの生き生きした生活を広げましょう」と提 案しています。

思い起こせば我が家もメディア漬けでした。 子どもたちはもうすでに成人しており、気付く のが遅かったと後悔していますが、近い将来孫 から実践させようかと密かに決意しています。