初めての海外旅行
那覇市立病院 伊是名 博之
少し前のことですが、平成15年の秋にK先生 ご夫妻、S先生と私の4人でスペインへ旅行す る機会がありました。これは昭和24年生の私に とって初めて経験する海外旅行で、強烈な印象 に残るものでした。
バルセロナとマドリッドに約1週間滞在。現 在の状況はわかりませんが、当時スペインの治 安の悪さに関して外務省からもかなり危険度が 高い地域との警告が発せられていました。現地 のガイドの首締め強盗にはくれぐれも気をつけ るようにとの説明にK先生が「僕は日本から笛 を持ってきたので強盗に襲われたらこれを鳴ら す積もり」といったらガイドがにやっと笑って 「アッという間に引き倒されてやられますから とても間に合わないでしょう」というものだか ら嫌でも緊張を強いられたものでした。初めは 地下鉄が怖かったのですが、2日もすると昼間 は平気で一人で乗り回してあちこち行けるよう になりました。でも地下道はさすがに無理でし た。みやげ物を買うのに会話の困難さにストレ スを感じたのでマドリッドの三越へ入ったとき のことです。入り口にいるガードマンが拳銃を 携帯しているのにはビックリ。買い物が済んで 出るときに、危険だからとタクシーに乗るまで ガードマンがついてくるのにはまたビックリ。 でも結局は一度も怖い目に会うことなくザグラ ダ・ファミリア教会を初めとしたガウディの建 築群、プラド美術館、フラメンコ、王宮と観光 を堪能しました。王宮の壮大な事は、かつて大 英帝国が勃興する前は世界一の覇権を誇ったス ペイン王国を彷彿させるに十分でした。名前は 忘れましたが、S先生とある美術館へ行ったと きのことです。玄関で落ち合う時間を確認した 後は自由に行動することにしました。ゆっくり 見学し、時間に合わせて玄関で待つこと30分。 いつまでも出てこないので、これはてっきり首 締め強盗に襲われたものと判断。展示室は大勢 の人がいるのにトイレは全く人がいないので二 次災害にあったらどうしようかと本当に怖い思 いをして館内にあるトイレをくまなく探し回っ ても見つからない。警備員は英語が全く通じな い。受付の案内係に友人が見つからなくて困っ ていると助けを求めたらやはり英語がよく通じ ないで、きっと大丈夫よを繰り返すだけ。最後 に思いついたのは日本大使館へ連絡する事。で も電話番号は知らない。たまたま傍を通りかか ったカップルに「アーユー・ジャパニーズ」と 声をかけたら、必死になっている私の目つきに 恐れをなしたか「違う、韓国だ」といって急い で離れ去っていきました。いよいよ絶望的な心 境になってきて1時間ほど経過した頃、ひょっ こりS先生が現れたではないか。なんと集合時 間を勘違いしていたとのこと。がくっときた一 瞬でした。でもピカソのゲルニカがスペインに あるとは思わなかったので大もうけの気分。有 名な絵画だけに大勢の見学者がいるわけです が、会場は絵の前にロープを張っており少しは 離れてみるわけだが、ガラスで覆って保護する ことなく無造作に床に立てかけてあるだけ。女 性の警備員が一人いるのだが、手持ち無沙汰で ぼんやりと立っているだけというののんきなと ころが面白い。日本だとこのような国宝級の絵 なら厳重にガードされてもっと遠くからしか見 れないところ。また美術館はどこでもペットボ トルは持ち込み禁止。カバンに隠せば問題ない が、手に持っていたり、カバンから見えたりし たら捨てるよう神経質に要求されます。絵画に 水をかけられるのを心配しているのかとおかし かった。
マドリッドの気候で面白かったのは、気温は 28度で日向では紫外線も強く暑いのですが、湿 度が40％前後なので汗はかかない。日陰に入る と急に肌寒く感じ、長い時間日陰にはおれない というのも不思議な経験でした。レストランで 食事をするときは大変でした。高級という触れ込みで、なるほど重厚な雰囲気でみな喜びまし たがスペイン語なのでメニューの意味がわから ない。旅なれたK先生が「ジャパニーズオアー イングリッシュメニュー・プリーズ」といった らOKと奥へ行ったので一同ホッと安心。でも 持ってきたのが英語メニュー。やはり洋食なの で内容が今ひとつよく理解できない。緊張して いたせいか、どう言って注文したのか、何を食 べたのか全く記憶していません。でも居酒屋で はとても楽しめました。カウンターの上に色々 な料理が皿に盛って並べてあるので、口に出さ ずに欲しいのを指差してポンポン注文できるの が嬉しい。治安の悪さと英語の通じないのに閉 口しながらもS先生と二人で毎晩強盗に注意し ながら、居酒屋や市場の食べ物屋さんでワイン を痛飲したものです。スペインでお勘定はラク ワンテといいます。店の女の子にラクワンテと 言うとビックリしたような、嬉しそうな顔が印 象的でした。
でもスペインは遠い国です。帰国の際、マド リッドのホテルの出発時間からアムステルダ ム、成田で乗り換えて那覇空港に着くまでなん と28時間も経過していました。