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ハーレー・カウボーイの国のオートバイ

大宜見義夫

おおぎみクリニック  大宜見 義夫

オートバイにこだわって34年になる。本土復 帰の年の7月(1972年)、オートバイでシルク ロードの国々を旅することを思いついた時以来 である。走行テクニック習得のため50cc原付か ら何台も乗り換えながら勤務先の北海道の原野 を走り回った。

1974年3月、第四次中東戦争が終わり、ニク ソン政権のキッシンジャー補佐官が和平に向け て世界中を飛び回っていた頃、インドからヨー ロッパの終点ハンブルク(ドイツ)まで3ヶ月 かけて2万3,000キロを走った。

以来、オートバイを日常生活から手放したこ とがない。雨以外の外出はほとんどオートバイを使い、車にはめったに乗らない。オートバイに 乗ること自体が好きなのである。絢爛豪華な大 型車には興味がなく、身の丈にあった400ccまで の中型車ばかりを選んで走りを楽しんできた。

ところが昨年、知人のハーレーダビッドソン 車に試し乗りさせてもらった。ハーレーといえ ば、シュワルツェネッガーのような大男が乗り 回すものだと思い込んでいたからこれまであま り関心がなかった。ところが、実物に乗ってみ るとシート丈が意外なほど低く、地響きをたて 走るパワーに圧倒された。

早速ヘリティジ・ソフテル・クラシック (FLSTC)という総重量450キロ、V型ツイン エンジン1,450ccのハーレーを購入した。

初めて乗った感想は、圧倒的なパワーと重量 感である。アクセルをちょっとひねるだけで半 身がのけぞるほど加速性があり、車体を身震い させながら走る様はあばれ馬に乗った感があ る。この車はカウボーイの国が作ったオートバ イだということを実感した。

鞍の形状をしたサドルにまたがりエンジンを 吹かすと、サドルの下からドドッドッと突き上 げてくるエンジン音が、馬の荒い呼吸や鼓動の ように思えてくる。

ハーレーという車は決して乗りやすい車では ない。車体は重く、うっかり倒せば修理に万単 位の金がかかる。計器類は少なく、スイッチ類 はごっつく大きく指が届きにくい、クラッチレ バーも握力を要する。始動もワンタッチではな く事前操作が必要だ。セントラルポジションへ のギアシフトも微妙な足さばきが要求される。 ヘルメットホルダーはなく、サイドバッグには キーがついてない。燃費は14km/L台と悪く、 ガソリンもハイオクタンが要求される。おまけ に巨大エンジンの吹き出す放熱で足下が熱風に さらされる。夏場だと火鉢を抱えて走るような ものだ。

そういうハーレーの扱いにくさは日米の文化 の差に由来しているのではないか。きめ細かさと 手先の器用さを生かし、コンパクトで使いやす く経済的で高性能の製品を作り上げる日本人と おおざっぱで細部にこだわらないアメリカ人との文化の差がオートバイにあらわれているのか。

日米のそういう違いを、ホテルの浴室でしば しば経験する。米国のホテルの浴室の器具は雑 でおおざっぱで使いにくい。水道の蛇口はかた く開けにくい、シャワーの取っ手の位置の移動 も固くきしんでままならない、洗面台の高さが 異様に高すぎる、トイレの紙の置き場所が遠す ぎるなど日本では考えられないほどいい加減だ。 バブルの前、日本製品が欧米市場を席巻した理 由の一つは消費者心理をたくみについた日本文 化のきめ細かさに由来しているのではないか。

しかし、日米の文化の差に由来するにしても ハーレーはあまりに重くでっかく扱いにくい。 そういう扱いにくいハーレーになぜ、人は魅せ られるのか。

その魅力は、やはり強力なパワーが醸し出す圧 倒的な存在感にある。重い車体にまたがり強力 なエンジン音に身を揺さぶられると、血の沸き 立つような効能感と高揚感が乗り手を魅了する。

450kgを超す車体にまたがり全身でバランス でとり、重いハンドルを押さえ、固いクラッチ を操作し、フットボードの上のシフターレバー をかかとでカタンカタンと蹴って加速する。そ の感覚は、あばれ馬を制して走るカウボーイと 同じだ。ハーレーにはやはりカウボーイの国の 人たちの、馬への思いが込められているのだ。 ハーレーがアイアン・ホースと呼ばれるゆえん である。

ハーレーのもう一つの魅力は、部品をいろい ろ取りかえ自分好みのスタイルに変えるカスタ ム性にある。街にはカスタム化されたさまざま なハーレーが走っている。サイのような巨大マ シーンが走る。ハイエナのように上半身を立ち 上げた奇妙なハーレーも走る。カマキリのよう な貧相な奴だっている。共通項は巨大なV型ツ インエンジンを車体に抱えていることだ。私は そのような大がかりなカスタムには興味はな い。多少部品を取りかえて身丈に合わせて走る ことができれば満足である。

重い車体にまたがり風を切って走っていると き、頭の中の雑念は吹っ飛び、自由な発想が頭の中を飛び交う解放感と荒馬を制御する緊張感 とが、一体となって全身を駆け抜ける。

私は、安定性と快適性に重きをおく四輪車と はまったく別の理由でハーレーを愛用している。