与那原中央病院 安里 英樹
肩の痛みを経験したことのある人は多いと思 われます。しかし、40歳以上で肩に痛みがある 人の中で、整形外科を受診する人は20%程度 と少なく、特に40歳・50歳代の受診率は低い と報告されています。この時期に肩の痛みを生 じた人は、五十肩でしばらくしたら治ると考え 放置していたことが多いのではないでしょう か。実は最近、五十肩は40%のものに肩関節 拘縮を認めたという報告もあり、リハビリ(運 動療法)を必要とすることが多々あるのです。
さらに重大なことは五十肩と診断されている 患者の約20%が実は腱板断裂であったという報 告もあり、腱板断裂は好発年齢、症状が五十肩 とよく似ているため五十肩と診断され放置され てしまう場合があります。しかも、腱板断裂は 保存的治療では改善しないため、手術を要しま す。しかし、長い間、腱板断裂を放置すると断 裂を生じた筋肉が萎縮し腱板断裂を修復する手 術が出来なくなってしまいます。そのため肩の 痛みは早期に鑑別しなければなりません。
肩の痛みは動作時痛と、安静時痛とがありま す。特に安静時痛は、夜間痛として睡眠障害ま でも招いてしまう場合があります。では、五十 肩と腱板断裂との痛みの違いはあるのでしょう か。一般に、五十肩は、早期では烏口突起や結 節間溝の肩前方部分が痛みます。慢性期では quadrilateral space(四辺形間隙)の後方部分 に痛みを訴えます。一方、腱板断裂は肩峰外側 部の棘上筋腱上腕骨付着部に痛みを感じ、その 延長上の三角筋外側部に放散痛を訴えます。
動作時疼痛で60°〜120°間の挙上時に疼痛 (painful arc)が生じた場合は、腱板断裂を疑 います。しかし、以前には腱板断裂の指標とさ れていたdrop arm signの発現頻度は高くあり ません。Impingement signは3方法あり、患 者を座位にし、検者は肩甲骨を押さえ肩内旋位 で挙上強制し、大結節を肩峰下面に押し付ける ようにして痛みとクリックを誘発する方法 (Neer)、水平外転位から内転強制し、大結節 が烏口腱峰靱帯下を通過する際の痛みとクリッ クを誘発する方法(Ellman)、外転位で急激に 外旋から内旋強制する方法(Hawkins)があり ます。3方法とも陽性の場合は腱板断裂の可能 性が高くなりますが、痛みが強い時期や可動域 制限がある場合には正しい評価ができません。 そこで私たちは腱板断裂の診断および術後の経 過に棘上筋抵抗テスト(SSP test)を重要視し ております。SSP testは、患者が肩甲骨面上で 30〜45°外転位、肩内旋位で上肢を挙上させ る時に抵抗を加え疼痛の出現とその部位、筋力 の減弱をみる方法であり、陽性の場合高い確率 で腱板損傷を疑います。
肩の痛みで最も鑑別に使われる検査はMRIで あり、高い確率で五十肩と腱板断裂の鑑別が可 能です。また、技術的な難点はありますが超音 波もMRIに匹敵するくらいの鑑別能力を有して います。
五十肩の治療は臨床病期に対応して行われま す。発症から2 ヵ月頃(急性期: freezing phase)までは、病理組織学的に炎症所見であ る肩関節包に充血と浮腫が認められるため疼痛 が強くなります。そのため治療は安静と除痛 (薬物療法およびステロイド剤またはヒアルロ ン製剤と局所麻酔剤の混合剤の肩関節腔内また は肩峰下滑液包内注入)を行います。発症後2 ヵ月頃(慢性期:frozen phase)から、肩関節 包が線維化し肥厚してくるため拘縮が生じてき ます。この頃から愛護的にリハビリ(運動療 法)が必要となってきます。このとき3ヵ月以 上も肩関節を安静にしていると拘縮が進行し、 最終的に拘縮が残存してしまいます。残存した 拘縮を改善させるためには、リハビリを根気よ く行う必要があり、可動域の改善まで発症後1 年もかかったりします。肩の痛みが3ヵ月も続 いている場合は、一度専門医に見てもらうこと が必要でしょう。
腱板断裂の治療 腱板は、外旋筋群である棘上筋、棘下筋、小 円筋と内旋筋群のひとつである肩甲下筋の4つ の腱が上腕骨頭の周囲で一塊となってみえるこ とから名付けられています。腱板断裂は主に肩 甲骨の肩峰と上腕骨頭の間にある棘上筋腱の断 裂です。断裂の原因は、主に肩峰との機械的な 摩擦と加齢による腱板そのものの退行変性によ り生じます。棘上筋腱の単独断裂の場合で外転 筋力は20〜30%低下するといわれているため、 肩関節外転挙上は困難となります。しかも、多 くの腱板損傷は、断裂方向が筋力方向に直行す るので自然治癒することはほとんどありませ ん。そのため、部分断裂でも完全断裂へ悪化し ていきます。腱板断裂の治療は、断裂した腱板 を上腕骨へ再縫着させることでありますが、肩 峰下に生じた骨棘が腱板と機械的な摩擦を生じ させていた場合には骨棘を削り、修復した腱板 との摩擦を生じさせないようにする必要があり ます。最近では、肩関節鏡視下手術により小さ な傷で手術を行うことが可能となっています。 鏡視下手術は術後の疼痛も少ないためリハビリ もスムーズに行えます。しかし、完全腱板断裂 後6ヵ月では修復が不可能となります。そのた め、肩の痛みが3ヵ月間続いていて腱板断裂が 疑われたときには、できるだけ早期に専門医に ご相談ください。