医療法人友愛会
豊見城中央病院内科
リウマチ・膠原病内科腎臓内科 潮平 芳樹
関節リウマチRAは炎症と免疫の異常からな る複雑な病態であり、その結果RAの患者は一 般の方よりも平均寿命が約10 年短く1 )、また 2005年のリウマチ白書によればQOLは著しく 低下し、失職率が84%と高率である2)。RAの 治療の目標は関節痛を緩和し、関節の破壊の進 行を抑制し、QOLを保つことである。これま で種々の抗リウマチ薬が使われてきたが1998年 より生物学的製剤エタネルセプト(エンブレ ル)、1999年インフリキシマブ(レミケード) が相次いで米国で使用されるようになり、治療 抵抗性リウマチ患者の症状の改善と関節破壊の 進行を遅らせる事が報告された。一方、RAは 発症後数年以内が進行しやすく、とくに発症し た1年以内の治療が重要であり、これを“window of opportunity”と呼んでいる。この時期 を逃さず強力に治療することにより40〜50% の寛解率が期待されるという報告もある。本邦 でも欧米に遅れて2003年にインフリキシマブ、 2005年にエタネルセプトが登場し、RAの治療 も新時代にはいった感がある。これまで以上に RAの早期診断と早期の十分な治療が重要にな ってきている。最近のRA医療の進歩について 述べる。
図1にアメリカリウマチ学会ACRのガイドラ インを示す3)。RAの確定診断がつき次第、遅く とも3ヶ月以内にDMARDを開始することが勧 められている。欧米で認められているのはメト トレキサートMTX、アザルフィジンENとアラ バ(レフルノミド)の3種類だけであり、MTX が標準薬として認知されている。効果がない場 合はDMARDの変更か併用し、半年以上治療 を続けても無効であれば速やかに生物学的製剤 の使用を考慮する。
1.血清診断
生物学的製剤の登場でこれまで以上に早期診 断が重要であることは先に述べたとおりであ る。1987年に提唱されたアメリカリウマチ学会 (ACR)の診断基準では診断に時間がかかりす ぎ、治療開始が遅くなることから、本邦では 1995年以降早期診断基準が設けられ、今日に 至っている。診断上一番問題になるのはRA因 子陰性の患者さんの場合であり、1、2年診断が 遅れることもしばしばである。いわゆるRA因 子陰性の場合は抗ガラクトースIgG欠損抗体や MMP-3(matrix metalloprotenase-3)、抗CCP 抗体(anti-cyclic citrullinated peptide antibody) などの登場により診断率が著しく向上 した。とくに後者は感度のみならず、特異度も 90%前後と優れている。
2.画像診断
発症早期のRAは関節X線で変化を捉えられ ないことが多い。MRI検査では骨びらんや骨嚢 胞、骨髄浮腫、滑膜炎の所見が見られ、早期 RAの診断に有用と報告されている。また、高 解像の超音波も早期RAの診断に有用と報告さ れ、全国のいくつかの施設で行われている。
RAは炎症と免疫の異常からなり、これらを 十分に、かつすみやかに治療することが重要で ある。炎症に対しては非ステロイド系鎮痛薬 (NSAIDs)やステロイド薬、免疫異常に対し ては疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)や 免疫抑制薬が使われる。治療抵抗性の患者さん や、完全寛解をめざして生物学的製剤が使われ るようになってきた。
国際的にEBM(evidence-based medicine) の観点からMTX、アザルフィジンEN、アラバ が使われており、本邦ではこれらに加えリマチ ル(ブシラミン)が推奨度Aと評価されている。 リウマチ専門医は最近では他のDMARDsはほ とんど使わない傾向にある。DMARD、あるい はこれらの併用療法が無効であれば、レミケー ドやエンブレルを検討することになる。
RAの患者の滑膜では活生化したマクロファ ージからTNF-αが産生され、その結果T細胞 が刺激され、次ぎにBリンパ球、破骨細胞、骨 髄巨核球、肝細胞などの細胞が活生化され、多 彩な臨床症状、CRPの上昇、血小板増多症な ど見られ進行していくことが知られている4)。 レミケードやエンブレルはTNF-α阻害薬であ り、このカスケードの上流で病態を治療しよう とするもので、従来からあるどのDMARDより も優れた効果があることが1990年代後半に多 数の臨床研究が報告された。
ASPIRE試験ではACR20(腫脹、圧痛関節が 20%と改善)、ACR50、ACR70などの改善率は それぞれ66%、50%、37%と良好な結果5)で、 またエンブレルを対象にしたTEMPO試験でも それぞれ85%、69%、43%で、さらにエンブ レルとM T X の併用群はp l a c e b o 群に比べ、 sharp scoreが改善している事が報告された6)。 すなわち、骨びらんの部分が修復したことが明 らかになり、注目されている(図3)
アラバは新しく開発されたDMARDの一種で MTXと同様に代謝拮抗薬に属する薬剤で、作 用も副作用も似ている。この薬剤はMTXが使 えない症例やMTXに不応の症例などがいい適 応と思われる。発売初期に間質性肺炎の合併が 問題になったが、その後間質性肺炎がある症例 は使用禁忌としたところ、ほとんど新規発生は 見られなくなった。
プログラフ(タクロリムス)
1995年に臓器移植に使われて生着率の向上 に多大な貢献をしたが、今年4月からRAにも適 応が拡大された。DMARDで寛解に至らない症 例に補完的に使ったり、あるいは間質性肺炎の 合併した症例には効果が期待されている。
RAを診る臨床医にお願いしたいことはRA治 療における寛解基準を目標に治療を進めてほし いことである。さもなければ患者の関節痛は良 くならず、CRP、血沈は高いまま、関節破壊が 進行していくことになるのである。日本リウマ チ学会ではこれまで関節の腫脹1ヵ所、圧痛2ヵ 所以下でCRP0.5mg/dl、血沈20mm/1hrを寛 解基準としていたが、それでも十分ではないと 言われてきている。最近ではX線所見で悪化し ていない“imaging remission”が望まれ、ま ったく無症状で血液検査やX線検査の進行がな い“true remission”本当の寛解と言うように なってきた。かかりつけ医の先生方にはRAの 寛解基準を明確に理解し、本当の寛解をめざし 日常診療で治療をすすめるよう期待したい。
Paul Emeryらによると超早期リウマチ患者 にレミケードを1年投与し、その後中止した患 者さんでも寛解を維持した7)と報告し、window of opportunityの時期に強力に治療を推進 することを提唱している。今後RAの治療が根 本的に変わること(パラダイムシフト))が予 測される“画期的な報告”であるが、多施設で の多数例の検討が待たれる。
ここ数年登場した生物学的製剤や免疫抑制薬 は効果もさることながら、高い治療費が問題と なる。今後も新しい治療薬が登場する予定にな っているが、治療効果と治療費を総合的な観点 から再検討するのも今後の課題である。
来年以降も新しい生物学製剤が登場する予定 である。RAの分野の治療は今後も発展が期待 され、さらに寛解率が向上していくと思われ る。RAのwindow of opportunityを逃さず、早 期診断、早期治療することが益々重要となり、 これまで以上にリウマチ専門医と病病連携や病 診連携が重要になると思われる。
文献