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魅力的沖縄研修Life

山本光洋

大浜第一病院1年次研修医 山本 光洋

「宮城征四郎先生、倒れられる!」合格発表 後、喜ぶ間もなく大阪から遥か離れた憧れの 地、沖縄へ来た私を待っていたのはこの衝撃的 なニュースでした。

総数21医療機関による多彩な教育プログラ ム、ピッツバーグ大学との日米医学交流など群 星沖縄での臨床研修の魅力は数限りないです が、私を含め多くの研修医の心を掴んでいるの は、やはり征四郎先生の教育回診ではないでし ょうか?

私が初めてその教育回診で学ばせて頂いたの は、現在研修させて頂いている大浜第一病院の 見学に来ていた時のことでした。

「何?痰が出る?色は?ティッシュは無造作 にベッドの周りに落ちているのか、それともき ちんとゴミ箱に捨てているのか?」

「それだけの熱が出ているってことは・・・ 呼吸数はいくつかい?何?数えていない?」 これだ!と思いました。まるで推理小説で犯人 を追い詰める探偵の如く先生はその患者の持つ 「謎」を解き明かしていきます。

何かといえば検査に走りがちで「人」を追究 することに億劫になった現代医療。無論、検査 はその追究には必要なことなのですが、多くの 医師が本来はそうしたいと思いつつも時間的人 的制約のなかで「人」というより効率としての 検査を選択せざるを得ないというジレンマに陥 っていると私は理解しています。

しかし、「三時間待って三分診療」と揶揄さ れる世の中で決して医師として忘れてはならな い「人を診る」という本質をここ群星で学ぶこ とができると先生の教育回診を見学して確信し ました。

幸いなことに征四郎先生は軽症で、七月にも 復帰されるとのことで胸をなでおろしておりま す。その一方、私は余りのプレゼンテーション 力の無さに業を煮やした副院長直々に厳しく御 指導して頂いておりますが・・。

さて、私の研修は大変な状況の中で始まった のですが、合理的かつ機能的な研修プログラム のお蔭で意外にもスムーズに進行しています。 最初の一ヶ月は看護部や検査部、薬剤部などの コメディカルを中心とした研修でした。いきな り医療部でやるのは大変だろうという配慮や電 子カルテの導入と重なったことも関係はあると 思うのですが、実際にそれぞれの業務を体験さ せて頂いて大変有意義な日々でした。そして、 医療を実践するには全てが必要不可欠だという ことを改めて認識することができました。ま た、それぞれの立場から医師の役割を客観的に 見ることは、自分がその立場になった時に如何 にすれば効果的な医療体制が整うかという答え を導き出すための礎になります。そして、その ことが現在の外科での研修に役立っています。

ここ大浜第一病院の外科では、私を含め四人 の医師全員での総主治医制を採っています。そ のお蔭で治療方針や手技など、どんな些細な疑 問点でも三人の上級医の先生方が親切に教えて くださいます。勿論、逆に外科に入院している 全ての患者さんの現病歴、既往歴、バイタル、 フィジカル等々必要なことをきちんと把握して いないと注意を受けます。また、外科の枠を越 え、他科で興味深い症例があれば積極的に一緒 に検討して頂けます。手術室でも疑問があれば その場で教えて頂けますし、簡単な手技はどん どん経験させて頂いています。

このように私は憧れの地(何故かは長くなる ので割愛しますが)沖縄で実に伸び伸びと研修 させて頂いています。では悩みは無いのかとい いますとそうではありません。まず電子カルテ です。恥ずかしながらこの時代でパソコンを持 っていない私にとって非常に厄介な「敵」で す。しかし膨大な情報を処理するには、紙では 限界があります。今ではこの時期に導入された ことに対して感謝の念を持って日々格闘してい ます。

次に薬の名前です。多くの研修医もそうだと 思うのですが、学生の時には一般名で教わって いたので、やはりあのカタカナの羅列は手強い です。しかし覚えるしかないですね・・・。ま た、他にもBLS、ACLS講習会やFD、毎朝の 勉強会などたくさんの良い研修プログラムが用 意されているのに、それをこなす事ができない 時には自分の不甲斐無さに気が滅入る時もあり ます。

でもそんな時には必ず上級医の先生方や頼り になる研修医の先輩が声をかけてくださいま す。一緒に島酒を飲むと疲れも吹き飛びます。 そして誓いも新たに「人を診る」医師を目指 し、前進することができるのです。

最後になりますが、私の実家のある大阪でも 群星を含め沖縄県の全ての研修制度は評判が良 いです(「ぐんせい」と皆が言いますが)。しか し、これほどまでに県内全ての研修指定病院が 手を取り合って明日の良医を育てようとしてい る所が他にあるでしょうか?実際にマッチング 率にもそのことは反映されています。私たち研 修医はその評判を落とすことがあってはなりま せん。この先どこの病院に行ったとしてもやは り沖縄で研修を受けた先生はしっかりしている なと言われるように、そして全ての患者さんに 安心していただけるように、そんな医師になる ことが私の目標です。