常任理事 小渡 敬
去る3月1日(水)、日本医師会において標記 協議会が開催されたので、その概要について報 告する。
定刻となり、野中博日本医師会常任理事より 開会が宣言された。
植松治雄日本医師会長(代読:寺岡日医副会長)より、概ね次のとおり挨拶があった。
介護報酬の改定が来月に迫り全体でマイナス0.5%となっている。
在宅サービスは平均マイナス1%となってお り、その内訳は、中重度者への支援強化の観点 から軽度平均マイナス5%、中重度者平均プラ ス4%となっている。
一方、平成17年10月に食費、居住費を保険 給付外として報酬改定を行った施設サービスで は、その影響を考え平均0%となっている。
今回の改定では、既存のサービスについて は、サービス提供の実態や利用者や保険料を負 担する方の視点を踏まえつつ効率化適正化の観 点から見直しが行われている。また、新たに介 護予防サービスや地域密着型サービス等のサー ビス体系も創設されている。
これらの新しいサービス体系を含め介護保険 における地域医師会の役割については、昨年12 月に本会の介護保険委員会から大変参考になる 答申を受けており、本日これからご報告いただ くことになっている。
また、三浦老人保健課長には、報酬改定や介護 療養型医療施設の説明、かかりつけ医の取り組みについてご説明いただくことを予定している。
介護療養型医療施設の廃止の問題について は、私どものスタンスはまだ十分に協議されて いないものであるという理解に立っており、同 時に、この問題に対する反論を既に発表してい るところである。
今後とも地域医師会のご支援ご協力をお願い したい。
(1)介護保険委員会(答申)について
嶋田丞日本医師会介護保険委員会委員長よ り、日本医師会介護保険委員会の活動について 報告が行われた。
平成16・17年度介護保険委員会は、全国か ら選出された16名の委員により平成16年7月28 日に発足した。同日、植松日医会長より「介護 保険における医療提供とケアマネジメントの関 わり方」について諮問が行われ、当諮問に係る 答申「高齢者医療・介護において果たすべき医 師・地域医師会の役割」を平成17年12月に発 表するまでに、計10回、会を開催した旨報告が あった。
答申は、日本医師会が平成16年11月に発表 した「高齢者医療と介護における地域医師会の 取り組み指針」を補完する形で整理されたもの であり、世界一の高齢国家となった我が国の高 齢者医療・介護における地域医師会の果たす役 割の重要性、また地域医師会に求められる取り 組み等を踏まえた内容になっている旨説明があ った。
地域医師会に求められている具体的項目に は、「高齢化に対する地域医療再編と包括的システムの構築」、「地域ケアの機能向上への地域 医師会の積極的関与と地域づくり」、「保険者と の連携の強化、介護予防への積極的関与」を総 論に、主治医機能の強化、効果的で良質のケア の提供、地域づくりへの積極的参加等に係る各 項目が提示されている。
(2)介護保険制度改正に伴う報酬改定等について
三浦公嗣厚生労働省老健局老人保健課長よ り、平成18年4月に行われる介護保険制度改正 に伴う報酬改定等について講演が行われた。
講演は、先ず、介護保険が施行されてから現 在に至るまでの推計(65歳以上の被保険者数の 推移(17%増加)、要介護認定を受けた人数の 推移(91%増加))について説明があり、今後、 いわゆる団塊の世代の方々が後期高齢者となる 2025年を見据え、どのような制度を作っていく かということを焦点に、制度改正が検討された と報告があった。
また、今回の介護保険制度の見直しは、言わ ば制度全体をいかに効率化し、一人一人に係る 負担をいかに軽くしていくかということが大きな テーマとなっており、そういう意味では、これま での介護保険制度を量的な整備と考えるのであ れば、これからの介護保険制度はサービスの質 の整備と考えられ、まさに介護保険制度が新し い時代に入りつつあると言えると説明された。
介護保険制度改正に係る背景が説明された後、 「介護予防」、「介護報酬の改定」、「介護療養型医 療施設の廃止」について説明が行われた。
「介護予防」では、要介護状態となる原因の 大きな割合を占める「廃用症候群」への対策が 重要な課題であり、今後、軽度者を重度化させ ないための慢性期対応並びに急性期対応を支援 するために地域包括支援センターを中心とした 地域における包括的ケアの構築を進める必要が ある。また、その為には地域の医師会の支援並 びにネットワークづくりが重要であり、ご協力 をお願いしたいと説明された。
「介護報酬の改定」については、全体でマイ ナス0.5%となっているが、これは今まで通りやっていればということであり、「中重度者へ の支援強化」、「介護予防、リハビリテーション の推進」、「地域包括ケア、認知症ケアの確立」、 「サービスの質の向上」、「医療と介護の機能分 担・連携の明確化」に盛り込まれた加算を丹念 にとっていけば報酬改定はプラスに向くと説明 があり、介護報酬の改定の中でも特に医療系の サービスに関する報酬改定について説明が行わ れた。
「介護療養型医療施設の廃止」については、 @現在の療養病床入院者の概ね5割の方が医師 の対応をほとんど必要としていない(「慢性期 入院医療実態調査」平成17 年11 月中医協資 料)、A医療保険適用・介護保険適用の療養病 床に入院する患者の状態が、「容態急変の可能 性は低いが一定の医学的管理を要する」、「容態 急変の可能性は低く福祉施設や在宅によって対 応できる」(「療養病床における医療提供体制に 関する調査」平成16年3月医療経済研究機構) と示されている調査を基に、これからの療養病 床は、医療の必要性の高い患者を受け入れるも のに限定し(医療保険で対応し)、医療の必要 性の低い患者については、病院ではなく在宅、 居住系サービス、または老健施設等で受け止め る、といった医療の必要性に応じた療養病床の 再編成を検討する必要があると説明があった。
医療の必要性に応じた療養病床の再編成を行 うにあたり、次回の制度改正が予定されている 平成23年度までの経過措置として将来的な老 健施設等への移行を視野に入れた、医師・看護 職員の配置等が緩和された「経過型介護療養型 医療施設(仮称)」の創設、医療の必要性の低 い患者を一定以上受け入れている場合の「介護 保険移行準備病棟(仮称)」の創設、医療の必 要性の高い患者の評価の引き上げ、低い患者の 評価の引き下げといった「医療の必要性による 区分の導入」等の検討について、また、療養病 床を転換するときの支援措置として、医療療養 病床へは医療保険財源による支援措置、介護療 養病床へは市町村交付金の実施について検討が 行われていると説明され、介護療養型医療施設の廃止は、決して外見的な問題だけでなく、む しろこれからの高齢者の保健医療福祉をどのよ うに提供するのかという根本的な問題を視野に 入れながら進めていきたいと説明があった。
(3)介護報酬改定(平成18年4月実施)等について
野中博日本医師会常任理事より、介護保険制 度に伴うかかりつけ医の役割等について報告が あった。
始めに「介護療養型医療施設の廃止」について説明があった。
この件については、現在、厚生労働省が自民 党等に提案している段階であり、今後、国会等 で検討されていくということであるが、日医と しては賛成している訳ではないことをご理解い ただきたい。
確かに、療養病床に入院する患者さんのある 程度の方々の病体が軽いという事実は分かる が、病体が軽ければ地域に戻って生活できると いうことでは無い。昨年10月に居住費と食費の 自己負担が制度化され、やむなく退院し自宅で 生活されたが、すぐに体調を崩されて亡くなら れた方もいると聞く。このような状況を検討せ ずに「療養病床の廃止」を掲げることは大反対 である。
また、老人保健施設等と介護療養型施設との 大きな違いが「医師の当直」の有無である。患 者さんの病状が安定していても、高齢の方は体 調が急に変わる場合もある。当直を無くして良 いということは入所される方々の尊厳と安全が守られていないと考えられ、十分な議論が必要 である。と説明された。
介護保険制度改正の説明に際し、医療では 「治療」ということを介護では「支える」とい うことを主の目的としている。医師は、患者さ んにとって医療が必要なのか、また患者さんに 介護を提供するときにもどのような点に注意す べきか等について、ケアマネージャー等に対し 情報提供を行うことが重要である。この情報提 供が、主治医意見書や居宅療養管理指導、診療 情報提供料(I)であり、先生方にはこの情報提 供に係る算定を是非ご活用いただきたいと説明 があった。
今回から制度化される介護予防については、 介護予防のねらいは、単に高齢者の運動機能や 栄養状態等の個々の要素の改善だけを目指すも のではなく、高齢者の生活行為や参加の向上を もたらすことにより、一人一人の生きがいや自 己実現のための取り組みを支援し、生活の質の 向上を目指すものであり、医師に期待される役 割として、「外来患者の生活機能の把握」、「生 活機能低下要因の評価と除去」、「種苗に関する 診断・治療」、「日常生活の指導助言」、「状況に 応じた関係機関の紹介」、「ケアマネや地域包括 支援センター職員との連携」が掲げられると説 明された。
寺岡暉日本医師会副会長より、本協議会の総括が述べられた。