常任理事 真栄田 篤彦(日本医師会学校保健委員)
平成18年2月18日(土)に日医会館で開催され、沖縄県から3名が参加してきた。下記に報告する。
開会の挨拶は学校保健担当常任理事の雪下國雄が行い、続いて植松治雄会長から全国の学校医の先生方が地域医療の一端を担っていることへの感謝の言葉と、日医と連携して学校保健事業の遂行の依頼を寺岡副会長が代読した。
(1)薬物乱用防止教育の充実について
1)薬物乱用防止5ヵ年戦略等について
平成15年からスタート。青少年による薬物乱用の根絶を目指すため、中・高校生を中心に薬物乱用の危険性を啓発。
警察職員や麻薬取締官OBなどの専門家による薬物乱用防止教育の開催。
2)合成麻薬事犯の増加等薬物乱用事犯の現状
中・高校生の覚醒剤事犯検挙者が高水準で推移している。
平成15年の少年の合成麻薬事犯の検挙人員は29人と増加。
(2)喫煙防止教育の充実
「児童生徒の薬物等に対する意識等調査」によると、喫煙が健康に害があることを知っている一方、喫煙の関心は高く[タバコを吸いたいと思ったことがある]という回答が少なくない。
学校教育において、児童生徒の喫煙防止教育教材を作成。
平成15年5月からの施行された健康増進法では、受動喫煙を防止するために必要な措置を講じなければならないと定められている。
(3)学校における性教育
児童生徒の発達段階に応じて性に関する科学的知識を身につけさせると共に、生命を尊重する態度や、自ら考え判断する能力を身に付け、望ましい行動が取れるように指導していく。
保護者や地域の理解を十分に得ながら、学校全体で共通理解を図って指導を進めることが重要。
(4)学校環境衛生の推進
科学物質を放散する建材・内装材を使用することによる室内空気汚染。
「シックハウス症候群」の問題。平成14年に「学校環境衛生の基準」を改訂し、さらに本年2月にはホルムアルデヒド、エチルベンゼン、スチレンなどの検査を行う物質に追加した。
(5)学校におけるアレルギー対策について
教職員に対してアレルギー疾患について正しい知識をもって児童生徒に対応できるようする。
1.ぜん息、2.アトピー性皮膚炎について教職員用パンフレットを作成。
平成16年から児童生徒の各種のアレルギー疾患の実態等について調査研究会を設置して調査中である。
(6)心の健康問題の現状と課題
1)現状
友人関係や家庭の事情等で、様々な悩みを持ち、心因性の頭痛、不快感などを訴える児童生徒の増加。
2)心の健康問題の対応
(学校・地域保健連携推進事業)
平成16年度から、心の健康をはじめとする児童生徒の様々な健康問題に対応するため、学校の要請により各診療科の専門医の派遣を行う等、地域保健等と連携し、児童生徒の心身の健康相談や健康教育を行うモデル事業を実施している。
(非常災害時の児童生徒等の心のケアの充実)
非常災害の際に児童生徒に心的外傷から起こるPTSD(外傷後ストレス障害)に対する心のケアの方法や、児際の場面での対応等について教師用の手引きを作成。
(1)防犯関係
学校や通学路周辺を発生場所とする凶悪犯罪が発生しており、平成14年度から学校安全の充実のために「子ども安心プロジェクト」を推進。
警察OBによる「スクールガード」を全国に本年は1,200名配置。
(2)防災関係について
台風や地震などの災害に関して正確な知識を身に付けさせると共に的確な避難行動を取れる力を持たせる。
(3)熱中症
学校の管理下において熱中症による児童生徒の死亡事故が発生。
熱中症予防のためのパンフレットを作成。
(1)指導体制の整備
栄養教諭制度が開始。
現職の学校栄養職員が栄養教諭免許取得の為に必要な講習会開設に6,900万円予算化。
平成18年度に栄養教諭の配置に向けて取り組んでいる。
(2)食育基本法案について
平成17年成立した「食育基本法」は、食育を国民運動として展開していく。
各都道府県、市町村において食育推進計画を作成していくことになる。
(1)医師会における禁煙活動のはじまり
日医における禁煙運動は肺癌学者でもある坪井栄孝前日医会長によって始まった。平成11年から。
(2)医師会における禁煙活動の状況
日本の危機的状況
19歳以下の夫婦の喫煙率 夫 83.8%、妻 44.3%
20〜24歳の夫婦の喫煙率 夫 83.4%、妻 34.7%
有効なタバコ対策
タバコ広告の禁止(直接・間接問わず)、タバコ値上げ、公衆の場や職場での禁煙、タバコパッケージ上の明確なメッセージ。
タバコからこどもを守るために
個人・家庭を変える。学校を変える。地域・社会を変える。
「食育」とは、国民1人1人が、生涯を通じて、健全な食生活が実現でき食文化の継承や健康の維持・増進等が図れるように、自らが食について考え、適正な食習慣を形成、持続できるように、様々な知識と判断力を、楽しく身につけるための学習等の取り組みを指す。
経済成長を含むわが国の社会情勢の変化を背景に、畜産物や油脂などの摂取が増加し、欧米化が進む。昭和50年頃には、エネルギー・栄養素ともにほぼ満足すべき基準に達した。脂質は増加する一方で、穀類やイモ類、野菜、米の消費が減少し、不規則な食事の形態が重なり、肥満、糖尿病、動脈硬化等、生活習慣病は国民病になりつつある。
「食育」という言葉は明治31年(1898年)石塚左玄が「通俗食物養生法」という本の中で、「今日、学童を持つ人は、」体育も智育も才育もすべて食育にあると認識すべき」と記している。
座長 真栄田篤彦(沖縄県医師会常任理事・日医学校保健委員)
近藤 太郎(東京都医師会理事・日医学校保健委員)
シンポジスト
1)山口吉春(神奈川県厚木市立鳶尾小学校長)
2)井藤尚之(大阪府医師会理事・日医学校保健委員)
3)岩井雅彦(日本臨床皮膚科医会・日医学校保健委員)
4)富永 孝(神奈川県医師会理事・日医学校保健委員)
日医では平成15年から「学校専門校医モデル事業」を開始。
日医学校保健委員会の担当常任理事である雪下國雄先生から文部科学省に対しても予算付けするよう要請し、「学校・地域保健連携推進事業」を全国的にモデル事業としてスタートした。平成17年にはほぼ全国の都道府県でモデル事業が実施された。沖縄県では文科省事業として2カ所がモデル事業を担当している。那覇市医師会は日医のモデル事業として平成17年からスタートしている。
(1)山口吉春シンポジストからは学校現場からの学校運営の課題として報告。
平成14年から週5日制の授業で、時間が不足している。
平成15年からモデル事業がスタート。学校保健委員会で専門医からの基本的指導ができる。「厚木講師」として7科の専門医師を相談医師として用意。
FAX相談制度の開始。
(2)井藤尚之シンポジスト
平成16年度スタート。
1)モデル地域を3箇所設置し、専門医の派遣
精神科領域を中心とした研修会・健康相談・事例検討会の実施。
2)性に関する電話相談
産婦人科医師による電話相談を月2回実施。
3)シンポジウムおよび講演会
校長、教頭、養護教諭、保健主事、学校関係者。
平成17年度はモデル地域を4箇所に。精神科医、産婦人科医、皮膚科医、整形外科医、小児科医、歯科医。
問題点としては、学校と地域、特に地域医療を担う地元医師会とその架け橋となる学校医や専門医との連携は、本事業の実施において、必ずしも十分とは言えず、この点に関して教育委員会や学校現場からも指摘があった。
ちなみに大阪府医師会では「大阪府医師会指定学校医制度」をスタートさせており、学校医としての資質向上にむけた研修の一環として本事業をはじめ、専門校医普及のために協力している。
現在の多様化した学校保健の問題に的確に対処するためには、医師会と教育委員会・学校現場、学校医・専門医と学校関係者、学校医同士のネットワークつくりが非常に重要である。
(3)岩井雅彦シンポジスト
文科省平成17年度学校・地域保健連携推進事業「学校専門医(専門相談医)制度」参画状況アンケート調査結果およびその分析
皮膚科が参画できた都道府県は20(60%)
精神科39(83%)、整形外科26(55%)、産婦人科34(72%)、
4科(皮膚科、精神科、整形外科、産婦人科)そろって参画は20(43%)。
皮膚科が都道府県医師会の学校保健委員会へ参加することが重要である。
今後、学校専門医(相談医)制度が定着するためには、文科省、日医、都道府県教育委員会、都道府県医師会の密接な協力体制が重要である。
(4)富永孝シンポジストからは全てをまとめた形で報告がなされた。
以上、平成17年度の学校医講習会について報告した。本講習会の詳細は8〜9月頃の日医医師会雑誌に掲載されるので、再読を希望する。
印象記
常任理事 真栄田 篤彦(日本医師会学校保健委員)
九州ブロックから日医学校保健委員会へ参加するようになってから6年が経過した。本委員会の役割は、日医の会長から学校保健に関する問題をテーマにして諮問の形で当委員会へ提案され、それに関して討議してまとめて年度末に答申の形で報告するわけで、2年ごとに発刊する日医年鑑に掲載されることになる。学校保健事業はとても地味な仕事であるが、地域により密着した医療活動の一つとして重要な位置づけされている。その証左として、医師が社会から表彰されるので一番多いのが学校医である。沖縄県内においては、学校医を受諾する医師が少ないようであるが、地域に根ざした医療活動を見直して、積極的に学校保健事業に是非参画していただきたいと願っている。
6年目に座長を担当でき、やっと重責を果たしたような気持ちである。