常任理事 小渡 敬
精神科の医療は他科と異なり、「医療法」に加え、「精神保健および福祉に関する法律(精神保健福祉法)」に基づいて行われている。精神障害は、疾病(患者)と障害(障害者)が共存するため、治療を同時に行う必要がある。精神科は医療と福祉が同時に行われる特殊な分野であると考えることができる。
先ず、本県における精神医療の概要(精神科の福祉分野については紙面の都合上省略する)を述べ、その後に精神科救急医療の現状について、平成17年精神科救急医療担当者連絡会より報告する。
本県における精神科医療施設(有床)は平成16年6月末で24施設であり、病床数は5,634床である。その内訳は、琉球大学病院(精神病床数40床)、国立琉球病院(350床)、県立精和病院(310床)、県立宮古病院(100床)、県立八重山病院(50床)で、公立病院の精神科病床数は850床である。残り19施設は民間精神科病院で総病床数は4,784床であり、全病床の約85%を占めており、本県の精神科医療は、全国と同様、民間病院がその大部分を担っている。その他病床を有しない精神科診療所は46施設あり、それを併せると本県の精神科施設数は70施設である。
精神科病床の普及率は、人口万対41.9(平成15年6月30日現在)であり、全国の人口万対27.8(平成15年10月1日現在)を大幅に上回っている。近年、本県においては精神科診療所の開設が増加しているのが特徴のひとつである。精神保健指定医(精神保健福祉法第18条に基づく特別の法的資格を有する医師)数は139名で、その内病院に勤務している指定医の数は97名であり、病院常勤医の33.9%である。
入院患者数は5,315名で、病床利用率は94.3%である。指定病床(措置入院患者病床)数は152床で措置入院者数は47名(0.9%)である。医療保護入院(保護者の同意と指定医の診察による強制入院)は、1,519名で28.6%であり、約7割が任意入院(本人の意思による入院)である(図1)。平均在院日数は県内が329.8日、全国348.7日(平成15年)で、全国より若干少ない傾向にある。
精神科病院の病床数は、本来、その地域での精神医療を行うのに必要かつ充分な病床数であればよいことは言うまでもない。そして、その必要な病床数は精神科の治療の進歩によって変化すべきであると考えられる。このような見方をすると、現在ある個々の精神科病院の病床数は必ずしも適切ではないかも知れない。なぜなら、最近の治療技術の進歩によって、短期間(1〜3ケ月)の入院治療で退院する患者が増えている。実際、1993年の日本精神科病院協会(日精協)の「精神科医療マスタープラン基礎調査」結果でも、新規入院患者(再入院を含む)の残留率は、入院1ケ月で76.0%、3ケ月で47.0%、6ケ月では30.2%、1年では19.8%、1年6ケ月では15.6%であり、すなわち1年半では、入院患者の85%は退院していることになる。それに対して、1996年の日精協総合調査では、5年以上の長期入院患者は、48.3%を占めており、そのうち統合失調症が、76.0%であった。また、入院患者の高齢化が進み、65歳以上は全入院患者の29.4%(9.9万人)を占めている。このことから精神科病院の病床利用は短期入院群と長期入院群に二極化していると言える。これは沖縄県でも概ね同様の状況にある。
本県の通院患者総数は、28,924名で、入院患者を含め患者総数は34,239名であり、県人口の約2.5%である。入院患者の費用負担内訳については図2に示した。図2の特別措置(17%)とは、昭和47年に本土復帰した時点で精神科病院に入院していた患者であり、入院医療費は全額公費負担である。通院医療費の費用負担内訳は図3に示した。本県では障害者自立支援法(本年4月に施行される障害者福祉法)に基づく精神保健福祉法第32条適応者は通院患者の56.2%である。入院患者の疾患別内訳(図4)は統合失調症が65.2%、器質性疾患が21.8%、気分障害が3.2%であり、概ね全国の疾病統計と一致している。
「医療観察法」(心身喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律、平成17年7月施行)と関連がある精神保健福祉法第29条に基づく措置入院ないし保護申請通報等の本県の年次別推移を図5に示した。ここに示した措置入院患者は次に述べる精神科救急医療システムからは除外している。図5のごとく、申請通報件数は平成12年以降急激に増加しており、年平均約170件で推移している。それに伴い措置入院件数も増加を認め、年平均約90件である。また措置解除件数も同様に増加しており、約90件が解除されている。これらの事例の中には殺人・放火等の重大犯罪行為を犯した者もいるが、その詳細については不明である。今後はこれらの重大犯罪を犯した者は医療観察法に基づいた措置がなされることになる。
図1 入院患者の入院形態
図2 入院患者の費用負担別内訳
図3 通院患者の費用負担別内訳
図4 在院患者の疾患別割合(平成16年6月30日)
図5 年次別保護申請通報等件数・措置入院件数・措置解
表1 沖縄県精神科救急医療システム概要
本県における現在の精神科救急医療システムが実施されるまでの経緯は、平成4年7月の沖縄県地方精神保健審議会において「精神科救急検討部会を設置し、充分な検討を図ること」として具申されたことから始まる。平成6年6月に同審議会で「精神科救急医療実態調査検討委員会」と「実務担当者会議」が設置された。その後、実態調査が行われ、数回の実務担当者会議が実施され、平成8年3月に「精神科救急医療実態調査報告書」が作成された。平成8年7月、同審議会で「精神科救急医療システム検討委員会」と「システム検討作業部会」が新たに設置された。その後、数回の検討会を経て平成9年2月に「精神科救急医療システム検討報告書」が作成された。同年5月〜7月に報告書が諮問され、答申された。これらの経過を経て、現在の本県精神科救急医療システムが平成10年6月1日より、実施された。その概要は表1に示す。
その主旨は、精神科医療を必要とする者が、いつでも安心して相談や受診ができるよう、精神科救急医療システムを整備し、精神障害者等の適切な医療及び保護を確保して、精神保健福祉施策のさらなる充実を図るとしている。実施時間は休日・夜間等の時間外とし、精神科救急医療相談窓口を総合精神保健福祉センターに設置する。県内全域を4圏域(本島中北部、本島南部、宮古、八重山)に設定し、圏域毎に病院群輪番方式(民間精神科病院15、公立4)による当番病院をおく。応急入院指定病院を圏域毎に整備する。措置入院患者や身体合併症患者に対応するため、関係機関との連携を促進するとともに受け入れ体制の整備を図る。各関係機関の協力と連携を推進し、本システムの適正な運営を図るため、精神科救急医療システム連絡調整委員会(表2)を設置する。救急医療システムは図6に示した。
開始当初、本システムは年末年始や土曜・日曜・祝祭日の夜間は実施されていなかったが、平成11年10月より県立精和病院がこの時間帯を受け持つことになり、365日24時間体制で実施されるようになった。
その後運用する中で、輪番病院とかかりつけ医との問題や、救急窓口を介するために生じる救急車の待機時間の問題等々、様々な問題が生じたが、システム連絡調整委員会でこれらの問題を解決し、現在、運用している。
表2 沖縄県精神科救急医療システム連絡調整委員会構成委員
図6 沖縄県精神科救急医療システム
年度別受信状況(表3)は年々増加しており、平成16年度は2,612件であった。その内訳は314件が当番病院に紹介され、内139件が入院となっている。また、かかりつけ病院には47件が紹介され、21件が入院となっている。しかし大部分のものは電話相談のみ(2197件)で対応がなされている。図7に時間帯別受信状況を示した。図8、図9はそれぞれ相談者別受信状況および対応別状況を示している。
現在、わが国の医療は第5次医療法改正を目前に控え、大きな変革期にあり、混沌とした状況が続いているが、精神医療の分野においても精神保健福祉法の改正のみならず、新たな医療観察法や障害者自立支援法が制定され、大きな変革期にある。また、精神科救急医療や精神科病院での長期在院患者の問題、精神障害者の社会復帰の問題等が大きな課題となっている。
今回は、本県の精神科医療の概要と精神科救急医療システムについて述べた。他科の先生方の精神科医療に対する理解が得られれば幸いである。
表3 年度別受信状況
図7 時間帯別受信状況
図8 相談者別受信状況
図9 対応別状況