人の日常生活の活動の元になる、酸素や栄養を含んだ血液の全身への供給は、心臓だけが担っているのではなく、骨格筋や末梢(まっしょう)血管(足や腕の血管)の収縮拡張の絶妙なバランスの上に成り立っています。
例えば、寝た状態から立ち上がったときに重力に負けて下肢に血液がとどまらないように、末梢血管が収縮して心臓に血液が戻りやすくして心臓から送り出す血液量を維持しています。ところが、睡眠不足、疲労の蓄積などにより自律神経のバランスが崩れたり、脱水などの体液量が減少したりするような状況に陥ると、座った状態または寝た状態から立ち上がった際に血液を心臓にうまく吸い上げられません。それに伴って脳やその他の臓器で一過性の血流不足が起きます。
脳の血流不足が起きるとめまいや頭痛が、消化管の血流不足では腹痛や嘔吐(おうと)といった症状が現れやすくなります。このような自律神経調節を含む血流調節のバランスが崩れた状態を「起立性調節障害」と呼びます。好発年齢(かかりやすい年齢)は10〜16歳で男:女=1:1.5〜2です。小学生の約5%、中学生の約10%に起こるとされ、意外と多いのですがあまり意識されていない疾患です。長く寝た姿勢から立ったときに症状が出やすいので午前中に調子が悪く、午後から回復してきます。これが思春期特有の心理状態と相まって“生活の乱れ”や“怠け”として誤解される場合もあります。
治療としては、まずは規則正しい生活の回復(早寝早起き、適度な運動)、しっかりとした塩分(1日10〜15グラム)と水分の摂取(1日1.5リットル以上)を心がけてもらいます。また厳しいクラブ活動や夏場の活動の後でも体液量が減少して同様な症状が起きやすくなるので、しっかりとした塩分補給と水分補給は重要な予防策となります。中度の症状以上や生活指導で改善しない場合には薬物療法も考慮されます。心理面や体質も関わる疾患なので、かかりつけ医と相談の上、気長に対応してください。