テーテルアブレーションとは、脈の速くなる「頻脈性不整脈」の発生源を高周波で焼灼(しょうしゃく)する根治療法のことです。発作性上室性頻拍、特発性心室頻拍、心房粗動、心室性期外収縮、WPW症候群といった頻脈性不整脈の90%以上で根治が可能です。
一方、私たち臨床医が日常で最も多く遭遇する不整脈である心房細動には、これまでアブレーションが困難とされてきました。心房細動とは、心拍動がバラバラとなることです。「動悸(どうき)・胸苦しさ・胸の圧迫感」など、強い症状を自覚する方もいれば、全く無自覚の方までおられます。しかし、この不整脈の一番の問題点は、症状の強さに関係なく、重篤な脳梗塞や心不全を起こす可能性が高いということ、そして発作性→持続性→永続性と進行性であることです。
心臓には、血液を送るポンプの働きをしている下の部屋の「心室」、全身の血液が戻ってくる上の部屋の「心房」があります。心臓は、規則正しいリズムで心房と心室が拍動を繰り返して全身に血液を送り出しています。
心房細動になると、心房がけいれんし心房の収縮がなくなります。そのため、心房内血液の流れによどみが生じ、血の塊(血栓)が形成されます。この血栓が血流に乗って脳の血管が詰まってしまうと脳梗塞になります。半身まひや失語症、重篤の場合は死に至る場合があります。また心房の乱れが影響し、心室の拍動も全く不規則となるため心臓の働きが悪くなっていきます(心不全)。重症脳梗塞の原因の約60%が心房細動とされています。
しかし、医療の進歩は目覚ましく、心房細動の発症メカニズムが解明されました。心房の後ろにある4本の血管の周りをアブレーションによる焼灼によって根治されることが判明したのです。2011年の学会ガイドラインから、薬剤抵抗性の心房細動に対してアブレーションが最も推奨される治療となりました。
現在、心房細動に対するアブレーションは2時間程度で術後2、3日で退院可能です。しかし、まれに重篤な合併症もあり専門の先生と相談して治療方針を決めることが重要です。