咳(せき)は誰でも経験する、いわばありふれた症状です。しかし、これが2〜3週間以上も続くと気になります。長引く咳が気になり、医療機関を受診しても胸部エックス線写真では異常なし、とされた場合、どの様なことが考えられるでしょうか。
日本呼吸器学会のガイドラインでは、3週間以上続く咳を「遷延性咳嗽(がいそう)」、さらに8週間以上続く場合を「慢性咳嗽」としていますが、「遷延性・慢性咳嗽」の3大原因は、咳喘息(ぜんそく)、アトピー咳、副鼻腔気管支症候群で、長引く咳の原因の約80%を占めます。
中でも最も多いのが咳喘息です。咳喘息は喘息という名がついていますが、喘息と違い喘鳴(ぜんめい)はなく、息苦しさもなく症状は咳だけです。咳喘息の咳は痰(たん)が少なく、就寝時や深夜、あるいは早朝に強い場合が多いのですが、日中にのみ認められることもあります。治療は喘息と同様、吸入ステロイドおよび気管支拡張剤が主体です。
アトピー咳は、のどのかゆい感じを伴うことの多い空咳(痰がない咳)で、就寝時、深夜、早朝時、さらには会話や電話時、タバコの煙やクーラー、運動等をきっかけとすることが多く、大多数は中年女性の方たちです。治療法は抗アレルギー薬やステロイド吸入薬です。
副鼻腔気管支症候群の咳は痰(黄色が多い)を伴う咳であり、鼻汁や痰がのどの奥に落ち込んでくることが多くみられます。治療法は抗生剤や去痰薬(きょたんやく)で、少なくとも6カ月継続を要します。
その他の長引く咳の原因には、胃食道逆流症や高血圧薬のACE阻害薬、心因性咳などがあります。胃食道逆流症の場合は会話、起床時、食事時に咳が強くなることが多く、胸焼け等の逆流症状は認めないことも少なくありません。治療は胃酸分泌抑制薬ですが、咳の改善まで2、3カ月と比較的長期を要することがあります。
胸部エックス線写真等の画像には異常がなく、咳だけが問題となる疾患のほとんどについては前に述べた通りですが、肺がんや気管支結核など重篤な病気が隠れていることもあり得ます。咳が長引く場合は早めに医療機関でその原因を確定され、安心して治療を受けましょう。