近年、食の欧米化や少子化などの影響もあり、乳がんの罹患(りかん)率は上昇傾向で、現在16人に1人が罹患する時代になってきました。加えて乳がんに関しては、全国で年間1万人の患者さんがお亡くなりになっています。
県内の現状はどうでしょうか。沖縄県はかつて、乳がん死亡率を全国水準と比較すると、かなり良好な成績、つまり乳がんで亡くなるリスクが他県と比較して低いという時代が長く続いていました。
しかしながらここ数年の乳がん死亡の動向を解析すると、乳がん死亡率の上昇は顕著で、現在沖縄県は乳がん死亡率の上位、つまり乳がん死亡リスクが高い県のひとつとなってしまっています。これはわれわれ治療医のみならず、沖縄県の皆さまにとっても由々しき事態だと考えています。
乳がんの死亡率を減少させるためには、検診システムや治療方針、啓発などさまざまな角度から対策を練る必要がありますが、ここでは乳がんの適正治療の重要性について論じたいと思います。
乳がんのみならずさまざまな疾患において治療法は、治験や臨床試験といった数多くの研究により決定されています。
乳がんに特化して考えてみると、乳がんはがん細胞のバイオロジー(特性)あるいはがんの進行度によって治療方針が決定されていますが、その際の治療方針は過去の治験・臨床試験の結果を踏まえた、エビデンス(根拠)に基づいた治療を行っていくことになっています。
県内の乳がん死亡を解析してみると、適正治療ではない、エビデンスのない治療により乳がん死に至ったケースが少なからず認められました。
例えば科学的根拠に基づいた化学療法や内分泌療法、手術や放射線療法を受けず、科学的根拠のない治療法で命を落とされている方がいるということが分かってきました。
根拠のない補完代替医療で乳がんは治りません。乳がん死亡率減少のために、科学的根拠に基づいた乳がん適正治療は極めて重要です。