糖尿病は現代病とも言われる代表的な生活習慣病の一つであり、わが国における罹患(りかん)率の上昇に伴い、その予防や対策に社会の関心が向けられています。
ところで、糖尿病にインスリンが関係していることは広く知られていますが、そのインスリンを分泌している膵臓(すいぞう)との関連については一般的に関心が高いとは言えません。膵臓は消化と血糖調節という重要な役割を担っているにも関わらず、20世紀初頭まで「暗黒の臓器」と表現されるほど、消化器系の中で最も臨床研究の遅れた領域でした。
社会的にいまだ認知度の低い膵臓ですが、糖尿病と関係の深い膵疾患として膵がんと慢性膵炎があります。中でも、膵がん患者には糖尿病の合併が多く、糖尿病治療の経過中に膵がんが見つかることは決して珍しいことではありません。特に発症2年以内や高齢者の糖尿病患者は膵がんの高危険群と報告されています。長年安定していた糖尿病が急に悪化した場合も膵がんの合併に注意が必要です。
膵がんは最新の医療技術を駆使しても依然、治すことの難しいがんですが、その理由の一つに診断の遅れが指摘されています。“不治の病”とされている膵がんでも早く診断できれば、他の消化器がんと同等の治療効果が期待できます。治療の機会を逃さないためにも、発症間もない糖尿病患者には膵がんの合併を念頭に置いた配慮が望まれます。
一方、慢性膵炎はアルコールを主な原因とし、頑固な痛みとともに膵臓の機能低下により消化吸収障害や糖尿病を来す疾患です。膵機能低下は飲酒期間や量に比例して徐々に進行しますが、膵石や膵管狭窄(きょうさく)に伴う膵液の流出障害が加わると低下を速め、疼痛(とうつう)と糖尿病のコントロールを困難にします。
慢性膵炎の治療は禁酒と同時に、増悪要因となっている流出障害の解除が不可欠です。膵機能が荒廃する前にこれら増悪要因を排除すれば、疼痛は消失し、機能低下の防止と糖尿病の管理を容易にします。
大酒家の糖尿病患者は慢性膵炎の有無を一度チェックしておくことが肝要です。