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乳がん治療(2012年12月25日掲載)

長嶺信治・沖縄赤十字病院

新「乳房温存術」、臨床試験へ

iPS細胞の発見による京都大学山中伸弥教授のノーベル医学・生理学賞受賞のニュースに日本中が湧き返りました。私も医者の端くれとして感銘を受けたと同時に、少しでも何かできることはないかと自問しました。

会見の席では、とても謙虚な姿勢が印象的でした。「私はまだ一人の患者も救っていない」とおっしゃったことが、今後の研究に対する真摯(しんし)な態度と共に現実を物語っていると感じた方も多くいたのではないでしょうか。

難病の克服、病気や事故で失われた機能の回復など多くの可能性を秘めていて、夢を抱かせる研究ではあるのですが、患者さんへの治療はまだ始まっていません。

これを患者さんに投与し治療に使えることを確認する過程を、臨床試験と言います。以前は実験台、モルモットにされるのではないかと考える方も多くいましたが、最近は少しずつ理解されつつあるのではないかと感じています。

私たちが使うすべての薬は臨床試験を経て皆さまに提供されていますが、日本は臨床試験を行うことがこれまで少なく、世界中で作られた薬や医療資源を大量に輸入しています、いわば医療の輸入大国なのです。

私の専門とする乳がんもたくさんの薬が開発され、多くの方が恩恵を受けるようになっていますが、ほとんどの薬は海外で開発、臨床試験を経て日本で発売されているものです。乳がんの手術も、以前は乳房全てを取り除くことが標準の治療でありましたが、欧米で行われた臨床試験を経て乳房を残す温存術が標準治療の一つになってきました。

ただし比較的小さな乳房の日本人では温存術を行っても変形が強く、満足度が高くないことがよくあります。ラジオ波熱焼灼術という乳房に全く傷をつけずにがんを死滅させる臨床試験が、これから日本で始まろうとしています。すでに400人以上の方に前治療がなされ、乳房温存術と予後は同等もしくは良好で、傷もなく見た目は治療前と全く変わらないという結果を得ています。多くの方が恩恵を受けることができ、世界に発信できる治療を確立することができればと夢は膨らみます。