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糞線虫(2012年12月18日掲載)

平田哲生・琉球大学附属病院

無視できない虫

今日の沖縄でも、まだまだ多くの人が寄生虫病にかかっているのをご存じでしょうか。清潔になった今日、そんなはずはないと皆さんはお思いでしょう。

沖縄では戦後寄生虫ゼロ作戦などが行われ、寄生虫はほとんど姿を消したと思われていました。しかし、1990年ごろ、糞線虫(ふんせんちゅう)という寄生虫をこれまでの10倍見つけることのできる方法が発明され、高齢者の約1割の方が糞線虫に感染していることが分かりました。現在の沖縄の高齢者人口から計算すると、いまだ2万5千人程度の方は糞線虫に感染していることになります。

それでは糞線虫とはいったいどんな虫なのでしょう。糞線虫は小さな虫で顕微鏡でないと見えません。

もともと畑などに住んでいた糞線虫の幼虫は、ヒトの皮膚から侵入し、体を移動して小腸で成虫となります。そこで卵を産んで、ふ化した幼虫は便とともに体の外に出るのですが、一部はもう一度体に潜り、人体で暮らします。これを繰り返し糞線虫は何十年にもわたり、体の中にすみ続けます。清潔になった今ではほとんど新たに感染することはありません。

糞線虫に感染しても通常は軽い症状で害はありません。しかし、虫の数が増えてくると、下痢、腹痛、栄養不良などの症状が出てきます。さらに増えると、肺や脳などにも虫が回り死亡する場合もあります。

実際に医学会などで毎年5人程度の死亡例が報告されています。しかし、これは氷山の一角で実際には、死亡される方はもっと多いと推測されています。

糞線虫の数が増えるのは、沖縄に多い成人T細胞性白血病ウイルスに感染している方、腎臓病や重症の肺気腫(たばこ肺)などでホルモン剤を使用中の方などです。このような方は寄生虫に対する抵抗力(免疫)が弱いため、糞線虫の数が増えてきます。

糞線虫には特効薬がありますので、診断がつけば治療は比較的簡単です。

転ばぬ先のつえともいいます。60歳以上の方はかかりつけ医に相談し、一度は便検査をしてはいかがでしょうか。