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肺がんの化学療法(2012年12月11日掲載)

久場 睦夫・国立病院機構 沖縄病院

副作用少ない内服薬

肺がんの治療も日進月歩で発展してきていますが、化学療法に限っても、最近その様相が急速に変化しつつあります。化学療法といえば皆さん、抗がん剤による吐き気や嘔吐(おうと)による苦しみ、さらには脱毛に悩まされるイメージが強いかと思われます。

しかし最近、従来の抗がん剤とは作用のしくみが全く異なり、効果が高く副作用の少ない抗がん剤が登場してきました。分子標的治療薬です。肺がんの細胞に特定の遺伝子変異のある場合に適用となり、その効果は従来の抗がん剤に比べ、格段に高い有効率を示します。

その一番バッターが「ゲフィチニブ」です。経口剤で1日1回服用します。副作用は発疹、肝機能障害、間質性肺炎などが主です。この種の薬では他に「エルロチニブ」があります。

さらに最近、ALK遺伝子が関与する肺がんが確認され、ALK阻害剤「クリゾチニブ」が登場、ALK遺伝子転座の肺がんによく効きます。この薬も1日2回の内服で一般に重い副作用なく治療が行えます。

血管新生(しんせい)阻害剤(注射薬)「ベバシズマブ」もこれまでの抗がん剤とは全く異なる作用機序で、がんを制御する薬です。副作用としては、鼻出血や血圧の上昇などがみられることがありますが、重篤でなく頻度も少なく、ほぼ安全です。

これら分子標的薬の使用にあたっては、肺がんの組織型を特定、さらには遺伝子検査を行い、投与の適切性を見極め、適合すれば使用する、ということになります。つまり従来の抗がん剤と違い、個々の肺がんの性質に合わせて、より選択的に治療するということで、いわばオーダーメードの治療です。

新しい薬は肺がんのうちでも大半を占める腺がんを中心とする組織型に適応となりますが、少数派の扁平(へんぺい)上皮がんなど、他の組織型に対する分子標的薬の開発も進行しつつあります。

進行期肺がんに対する根治はいまだ困難ですが、個々の組織型に適合した有望な抗がん剤が臨床現場に新たに登場してきています。肺がんの化学療法に際しては専門医とよく相談して治療を受けるようにしましょう。