外来の診察室に入るなり「先生、年取ったらよー、アマクマ(あちこち)痛いさー」とおっしゃる方は少なくありません。
私たち医者はこの「アマクマ」に参ってしまいます。「どこから手を付けよう」「何が一番問題だろう」と考えるわけです。でも患者さんにとっては、どこも同じように問題なのです。
診察すると確かに膝、腰、首、肩など、いろいろな場所の動きが少し悪くなっています。動かすと激痛ではありませんが、痛みがあり、筋力も全体的に少し落ちています。実はこれが一般的な運動器不安定症の症状です。
運動器不安定症とは一つの病気ではなく、「高齢化により、バランス能力および移動歩行能力の低下が生じ、家に閉じこもった状態、転倒リスクが高まった状態」とされており、多くの病気やけががこの状態をもたらします。
背骨の骨折や変形、下肢(足)の関節の変形や痛み、骨粗しょう症、神経障害(まひなど)、足の切断、長期間寝ていたための体力低下などがそうです。
日常生活動作が自分でできるか、もしくは外出に少し介助が必要な程度の方で「目を開けて15秒、片足立ちができない」または「いすから立ち上がり3メートル先の目標物を回って、戻って着座するまでに11秒以上かかる」となれば、これはもう、立派な運動器不安定症ということになります。
さて、運動器不安定症になったら? 病院で原因となる病気を治療しながら、リハビリを併用し、バランス能力を改善する必要があります。
介護保険で利用できる通所、訪問リハビリが有効でしょう。関節の動きや筋力を改善し、動きやすく転びにくい体を作りましょう。必要に応じてサポーターやコルセットなども利用しましょう。
まだ痛みがない方は取りあえず安心。でも気付かないうちに変形が起こり、筋力が弱くなることがあります。散歩や体操、スイミングなど何でもいいですから、痛みが出ない範囲での運動を習慣付けたいものです。気になるときは近くのお医者さんにご相談ください。