慢性の下痢、特に粘液便の訴えで病院を訪れる方の一部に、直腸粘膜逸脱症候群の方がいます。今回はこの疾患について紹介します。
孤立性直腸潰瘍と呼ばれることもあるこの病気の原因は、排便時の過度の「息み」です。排便時に息み過ぎると直腸の粘膜が肛門から飛び出してしまい、それが繰り返されると直腸粘膜が傷付き炎症を起こします。
直腸粘膜に炎症があると残便感を生じるため、排便時に実際は無い便を出そうと、さらに息むことになります。すると、肛門からの直腸粘膜の脱出がさらに繰り返され、炎症が悪化する悪循環に陥ります。ひいては直腸に潰瘍ができて出血したり、直腸の炎症による粘膜の腫れを、がんと間違えられたりすることもあります。
直腸粘膜逸脱症候群の人は、便意があるためトイレに行くのですが、いくら息んで排便しても少量の粘液便しか出ず、また排便後も便意は収まらず、すっきりしません。ですから「粘液便を繰り返すため下痢」と訴える方も、「便秘ですっきり便が出ない」と訴える方もいます。
この疾患の患者の割合は女性が高く、本人の潔癖症の性格から、排便時にとことんおしりを拭いたり、温水洗浄便座(ウォシュレット)で洗ったりしないと気が済まないことがきっかけになっているようです。
診断には大腸カメラの検査が必要で、直腸の粘膜組織の顕微鏡検査で診断の手がかりとなる変化を確認します。また、直腸粘膜逸脱症候群と同様に、粘液便を引き起こす、大腸がんや他の病気が無いかも確認する必要があります。
治療は病気の原因を理解し、排便時に息まないように実践するだけで良くなりますが、時に直腸の炎症を抑える座薬を使います。
下痢が長期に及ぶ場合には、今回紹介した直腸粘膜逸脱症候群以外にもさまざまな原因疾患があります。原因を調べる場合は、便の性状観察や採取が必要なことがあるため、通常面倒な前処置なしで、大腸カメラ検査を行います。悩んでいる方は一度、大腸カメラ検査ができる病院を受診されることをお勧めします。