肺がんは悪性度が高く、治療も比較的困難ながんのひとつです。原因として第一にたばこが挙げられますが、たばこを吸わない人も発症します。誰が肺がんになって、誰はならないか? 事前に知ることはできません。
私が外科医として肺がんの診療に関わるようになった30年前は、がんの告知は一般的ではありませんでした。しかし現在では、社会的要求の高まりや治療成績の向上によって告知はほぼ100%行われています。
がんと上手に付き合うには、治せる段階で発見し治療することです。
がんの発見動機は(1)検診で発見(2)他の病気のため通院中にたまたま発見(3)自覚症状により病院を受診して発見―があります。早期に発見するには経年受診、すなわち毎年欠かさず検診を受けることが重要です。
治療の柱は手術、抗がん剤、放射線治療ですが、対症療法や緩和医療も治療の選択肢として重要です。
がん治療の進歩は日進月歩です。現時点では手術でがんを完全に切除することが、最も効果的な治療法です。従って、肺がんにかかってしまった場合、早い段階なら手術によって切除し、完全に縁を切ることが最善策です。
切除不能と診断された場合には、がんを治すのではなく、できるだけ長くがんと付き合う作戦に切り替えます。強力な抗がん剤を用いて一時的な治療効果を求めるのではなく、長く続けられる治療が結果的には最良の治療です。
免疫療法も理論的には昔から研究されている治療です。臨床試験も始まっており、今後の発展が期待されます。きつい副作用や合併症が少ないのが特徴です。
私を含め、がんの診療に携わる多くの医者は、漠然とした印象ですが、がんに対する不安や恐怖の感情が少ない人ほど、がんの再発が少なく、進行も遅いのではないかと感じています。
がんを嫌って攻撃をすれば、がん細胞も自らの防衛を強化するかのように振る舞うことがあります。がんを嫌わず、自分の身体の一部と割り切って、がんとの平和共存を長く続けることが結果的に穏やかな療養につながります。