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分子標的薬(2012年5月15日掲載)

仲村 将泉・浦添総合病院

がん、通院治療可能に

分子標的薬という抗がん剤をご存知でしょうか。今回は、消化器がんに限定してお話しします。

抗がん剤には従来の抗がん剤と、新規抗がん剤といわれている分子標的薬があります。がん細胞のDNAや骨格をつくるタンパク質を直接攻撃し、がん細胞を破壊するのが、従来の抗がん剤です。

分子標的薬とは、がん細胞が増殖する中で重要な役割をしている分子を標的にして阻害し、がん細胞の増殖を抑えることを可能とした抗がん剤です。また、がん細胞を養う血管増殖を抑制する分子標的薬もあります。

これまでの抗がん剤は、吐き気、食欲低下などの消化器症状や、脱毛が多かったのですが、分子標的薬はこのような副作用が比較的少ないのが特徴です。

また、治療効果を予測した上で、投与する薬を選べるという点も進歩したところです。具体的な例を大腸がん治療で挙げてみます。治療前に組織検査で得たがん細胞のKRAS遺伝子(がんの増殖に関わる遺伝子)を調べます。KRAS遺伝子に一部変異を認める場合は、ある種の分子標的薬を投与しても治療効果が期待できないことが分かりました。治療前に検査を行い、必要のない抗がん剤治療を避けることができるのです。

現在、消化器がんで使用されている分子標的薬を商品名で記載して紹介します。胃がんではハーセプチン、大腸がんではアバスチン、アービタックス、ベクチビックス、肝臓がんではネクサバール、膵臓(すいぞう)がんではタルセバなどがあります。点滴薬や飲み薬があり、従来の抗がん剤との併用や、分子標的薬のみで使用します。

外来通院で治療することが多く、自宅で過ごしながら抗がん剤治療を受けることができるようになったため、入院することは少なくなりました。それにより、患者さんは、生活の質を落とすことなく、抗がん剤治療を受けることができます。

分子標的薬の研究は、全世界で進められています。治療効果があり、副作用が少ない分子標的薬がさらに開発されることを期待しています。