骨盤底筋(こつばんていきん)を知っていますか? 骨盤の底で内臓を支えている筋肉です。元来、骨盤底筋はしっぽを動かす筋肉でしたが、四足歩行から二足歩行へ人間が進化する過程で内蔵を支える存在になりました。肛門をキュッとしめる筋肉や尿を我慢する筋肉は骨盤底筋の一部です。
女性の骨盤底筋が弱るとクシャミや咳(せき)で尿がもれる腹圧性尿失禁になったり、膣(ちつ)から膀胱(ぼうこう)や子宮が脱出する骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)になったりし、生活に大きな支障が出てきます。
骨盤底筋が弱る原因の一つが分娩です。妊娠、出産は人生でかけがえのない素晴らしい瞬間ですが、それは女性の骨盤底筋への負担と引き換えでもあります。分娩(ぶんべん)で狭い産道を赤ちゃんが無理やり通ることで周囲の骨盤底筋は大きなダメージを受けてしまいます。
分娩以外にも、長年にわたる立ち仕事や腹圧のかかる仕事が徐々に骨盤底筋にダメージを蓄積させていきます。年月がたつとダメージはとうとう限界に達し、尿失禁や骨盤臓器脱になってしまいます。
これらの女性骨盤底の疾患は泌尿器科と産婦人科の境界領域であり、最近ではその分野を専門にする医師も増えてきました。骨盤底筋が弱ることは女性がそれまで頑張ってきた証しであり、治療を諦める必要はありません。
弱った骨盤底筋の治療の手段はたくさんあります。筋肉を鍛える骨盤底筋運動、骨盤臓器脱の症状を和らげるガードル型クッション、リング状の器具で子宮が下がることを抑える方法、下がった子宮をおなかを切らずに摘出する手術、テープで尿道を補強する手術、網目状のシート(メッシュ)で膀胱や子宮を持ち上げる手術などです。
こんな症状は自分だけだろうと諦めている方は、まず医師や看護師に相談しましょう。相談に来られる患者さんの多くが恥ずかしくて病院の前で引き返した経験があります。なかなか受診できずに1年以上前の新聞記事を持って受診される方もたくさんいらっしゃいます。相談する勇気が必要です。この記事が少しでもその勇気を後押しできれば幸いです。