病気は、心臓、肺などの各臓器の破綻でおきます。破綻した臓器の代わりとして人工臓器を開発し臨床応用して健康を回復するという発想は当然の帰結です。
現在、心臓血管外科部門においては、人工臓器を使用し治療を行う場合が多々あります。例えば、人工血管や人工弁などが代表的です。これらの開発にあたっては、臓器そのものの形、働きを“まねて”人工的に作り上げようとします。人工血管、人工弁などの単純なものは成功していますが、人工心臓の開発は、多くの障害に直面しています。
心臓は、筋肉が収縮、拡張を繰り返して血液を全身に送り出します。血液は連続して送り出されるわけではなく、心臓の筋肉が収縮する時だけ全身へ送り出されます。そのため、心臓が収縮する時に高い血圧が生じ、心臓が拡張している間は低い血圧が生じます。その結果、血圧が高い時に動脈に触れると“脈”として感じることができます。このような血液が周期的に流れることを“拍動流”といいます。
一方、水道水が水道管の中を一定の圧力で、連続的に流れる状態を“定状流”といいます。
人工心臓は、この二つの方法で研究・開発が進められ、人間に臨床応用されました。読者の皆さまは、どの方式が人間をより長く生かすことができたと思いますか?
人間の血液の流れ方に近いのは前者ですが、意外なことに正解は後者です。このことは、人類がわれわれ自身の体の生理をまだ完全に理解していないことを意味しています。
現在では、視点を変えて臓器複製をiPS細胞などの再生医学を応用して行う研究も始まっていますが、まだ緒についたばかりというのが現実です。
文明の発達とともに、人工臓器の研究・開発は大きく進歩してきています。研究を通してわれわれは、人間の体の仕組みが“超高性能で超巧妙”につくられており、それを人工的に複製することはかなり難しいことに気付かされます。従って、いかに健康を保持するのかが、より重要な課題になってきているものと考えています。