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幹細胞(2011年12月6日掲載)

大石 正雄・中部徳洲会病院

再生医療で活躍

形成外科は主にけが、やけど、腫瘍などを扱いますが、がんの手術や外傷などで大きなへこみや変形が生じた場合、身体の他の部位から皮ふ、脂肪や筋肉、骨などを持ってきて再建をすることがあります。この再建に近年、再生医療の技術が導入されてきています。

トカゲのしっぽが再生するのは幹細胞という特殊な細胞の働きによりますが、人体にも存在するこの細胞を用いて、失われた臓器や組織を作り出そうというのが再生医療です。幹細胞はいろいろな細胞へ変化する能力、血管を作り出したり傷を治したりする能力を持ち、よく知られている幹細胞としてはES細胞(胚性幹細胞)、IPS細胞(人工多能性幹細胞)、体性幹細胞などがあります。

最も有名なのは骨髄からの幹細胞で、骨髄移植は骨髄中の幹細胞を用いた再生医療の代表です。しかし骨髄から幹細胞を採取するのは体に負担が大きく、また得られる細胞数が少ないという問題点もあります。

最近、皮下脂肪の中に豊富な幹細胞が存在することが分かり、骨髄よりも採取が簡単で、また脂肪以外の細胞にも分化することが証明されました。

現在はその脂肪由来の幹細胞を用いて国内外で心筋梗塞や脳梗塞、尿失禁、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線潰瘍、下肢の虚血性疾患などに対して臨床試験がなされ良好なデータが得られています。

形成外科の分野では手術や外傷、病気でへこんだ部分に脂肪と幹細胞を注入してふくらみを出す治療に生かされており、主に乳がん手術後の変形の修正や、豊胸などの美容的な領域で応用が進んでいます。その他にも傷の治癒能力を期待して難治性の潰瘍などに用いられています。

将来的にはさまざまな難病に対しての幹細胞治療が当たり前に受けられたり、それこそトカゲのしっぽのように大きな組織を作り出したりすることが可能となるかもしれません。

また、若い時に幹細胞を保存し、将来病気になった時にそれを使う「細胞バンク」というシステムも実現されており、とても夢のある治療だと思います。