標準医療という言葉をご存じでしょうか。標準という言葉からは平均的とか月並みとかを連想しますね。優れたとかハイレベルというイメージは思い浮かばないと思います。
しかしオリンピック標準記録と聞くと、かなりイメージは違ってきませんか。ちなみに北京オリンピックの陸上男子100メートルの標準記録は10秒21で、これに近い記録を出さないと参加そのものが困難になります。かなり高い基準ですよね。
さて標準医療とは、その時に得られている最良の医学的根拠に基づいて、それを実践する医療のことです。
具体的な例を挙げると、高血圧の治療は中年・若年者の場合なら血圧を130/85mmHg未満に下げるということです。高血圧治療の目的は脳卒中や心臓病、腎臓病の予防です。そのためには130/85mmHg未満に下げないと十分には予防できないという医学的根拠に基づく診療ガイドラインがあるのです。単に薬を飲めば良いというものではありません。ところが治療を受けている高血圧の患者で、ちゃんと血圧が下がっている方は意外にも全体の4割程度しかいません(高血圧の専門医なら6〜7割)。なぜでしょう。
医師側の要因としては情報の遅れ、診療ガイドラインに懐疑的であることなどが挙げられます。患者側の要因としては診療ガイドラインを自身にあてはめて理解することが難しいことや「今まで何でもないのだから少々高くてもかまわない」「薬を増やすのは嫌だ」などの拒否的な姿勢があります。
血圧を下げるのが難しくない場合でも、実際の診療の場ではさまざまな要因でそれが実践できていないこともあるのです。
診療ガイドラインを実践することが、標準医療となり質の高い医療につながります。そのためさまざまな疾病のガイドラインが約10年前から作られてきました。
診療ガイドラインは日本中どこで診察・治療を受けても良い医療=標準医療が受けられるように、医師の知識と経験を基に患者さん個々の合併症や年齢、性別、体質などを考え、最も適した医療を提供しようというのが最終目標です。