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在宅死(2011年2月22日掲載)

大城 清・県立北部病院

希望と現実に隔たり

衰えた機能を補うために、いろんな装置が装着される。のどに穴があけられ、人工呼吸器に管でつながれ、おなかには栄養補給のために皮膚から胃まで穴があけられ胃ろうのカテーテル(管)、尿道には尿排出のために留置カテーテルが挿入されている。そのほかに点滴も。おまけに、管を抜いてしまうのをおそれて病院側は、手足の抑制。家族とのお別れの時の大切な対話を奪う。管付きの年老いた親を見て、こんなはずではと思う子どもたち。危機を乗り越えたとしても、退院後はどうしようと悩む。

われわれが勤務する急性期病院・救急病院に、療養型施設や自宅から急変したと搬送される方は多く、先述の情景は急性期病院でよく見かけます。

他方、在宅医療を支えている在宅支援診療所や訪問看護センターからの報告では住み慣れた家では家族に囲まれ錯乱することなく穏やかな最期を迎える方が多いようです。病院より家の方が温かいからでしょう。

1960年代、在宅死は70%でした。1970年代半ばに、病院死と在宅死が逆転しました。そして、今や病院死が82%。在宅死はわずか12%です。社会構造の変化すなわち核家族化や共働き所帯の増加が原因といわれています。加えて、病院医療に対する過度の期待が挙げられます。確かに、医療の進歩はめざましいです。しかし、生物である人間に永遠の生命はありえません。死生学の泰斗、アルフォンソ・デーケン先生は「人間の死亡率は100%」とおっしゃる。まさに死はすべての人に平等に訪れます。

厚生労働省の調査では、自宅を最期の場所に希望している方は6割を超えています。希望がかなう方は12%、現実と大きな差です。ついのすみかは自宅だと思っていても、多くの方が、希望を達成できていません。介護者であるご家族の負担を思ってあきらめている方も多いでしょう。報告されている在宅のメリットを考えると、ご本人の死(人)生観にもとづく意志やご家族の強い希望があれば、実現させたいものです。あなたなら、病院を選びますか? それとも自宅を希望されますか?