筋内血腫(きんないけっしゅ)とは、筋内に出血が起こり、血液がたまった状態のことです。外傷などの誘因がない場合はまれとされてきましたが、最近、3人の患者さんで経験したので、お話しします。
最初の方は、脊髄(せきずい)障害のある方で、下肢に軽い腫れがあったのが、2日間で著明になりました。検査を行ったところ、ふくらはぎの筋から出血し、太ももに広がる巨大な筋内(間)血腫と判明しました。貧血も重度で輸血を行うほどでした。
2番目の方は、脳卒中後の方で、むこうずねに腫れが出現し、筋内に7センチの血腫が確認できました。3番目の方も、脳卒中後の方で、ふくらはぎにしこりと痛みを訴えました。やはり筋内に10センチの血腫が見つかりました。いずれも大きめの血腫ですが、安静などにて増悪はありません。
誘因なく筋内血腫は起こるのでしょうか? 今回、出血を起こした筋が、肉離れを起こしやすい筋であるのと運動まひのある方に発症している点に着目しています。運動まひのある患者さんの筋は、運動中に目的に沿わない収縮を起こすことがあります。その際、肉離れが起こる可能性があります。肉離れは、筋内に少量の出血を起こします。
では、少量で済むはずの肉離れの出血は、なぜ、大きくなってしまったのでしょうか? 実は、どの患者さんにも止血を障害する因子がありました。そのため、出血が止まりにくく、大きな血腫を形成してしまったと考えます。
さらに、1、2番目の方は、感覚障害のある部位に発症していました。肉離れを起こす時は痛みがあるはずですが、感覚障害のために痛みを感じにくく、運動を継続したことも血腫を大きくさせた要因でしょう。
まれといわれた、誘因のない筋内血腫ですが、運動まひ、止血障害、感覚障害などの条件がそろうと発症しやすく、決して少なくはないと思います。時に、血腫は神経などを圧迫し、障害を起こすため注意が必要です。
なお、下肢の急な腫れを起こす疾患としては静脈血栓症もあります。筋内血腫とは、見分けがつきにくい場合もあり、症状のある場合は病院受診をお勧めします。