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治療同盟(2010年12月14日掲載)

勝連 英雄・かつれん内科クリニック

信頼築き病気に対抗

最近「治療同盟」という言葉を知りました。精神分析療法でクライエント(患者)と治療者との協力や共同作業のことをいうそうですが、語感が気にいったので「患者さんの信頼を基に、患者さんと医療者が協力して病気に対抗する同盟」と勝手に解釈して使いたいと思います。

医師になって二十数年の間に、医療技術、機器は目覚ましく進歩しました。一方、医療保険は財源の捻出に苦労し、医療行政は医療費の制限に躍起です。しかし、この間に最も変化したのは、医療者に対する患者さんの信頼感が低下したことではないでしょうか。われわれ医療者の傲慢(ごうまん)さや未熟さが招いた結果と素直に反省していますが、本質的に医療に信頼関係は不可欠だと思います。

私は糖尿病や慢性腎臓病、高血圧、脂質異常症、心臓病および腎不全(透析)の病気をお持ちの方々と日々接しています。多くの方はひとりで複数のご病気を持っておられます。病気が進行すれば専門的治療が必要となり、専門医がおられる総合病院に集中し病院医師の過重労働に拍車が掛かります。患者さんは病気ごとに専門的な治療を受けられますが、複数科受診による経済的、時間的負担が大きいです。さらに最も大切なことだと思いますが、両者ともに一対一の責任感や信頼感が薄まっていくことにならないでしょうか。

われわれ「かかりつけ医」は、患者さんの人生に寄り添うことに生きがいを感じています。その「かかりつけ医」が、専門的治療が必要ないくつかのご病気をお持ちの方との「治療同盟」を結成するにはどうすればいいでしょうか。

患者さんのいくつかの病気を専門的に治療しつつ、患者さんの人生に寄り添う「専門的かかりつけ医」(これは造語です)とでもいう立場がひとつの解決策だと思います。ひとりでいくつかのご病気をお持ちの方は今後とも増えていくことが予想されますので、この「専門的かかりつけ医」は「かかりつけ医」と「専門医」の間を埋める存在として、ますます必要とされていくのではないでしょうか。