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子供の咳(2010年10月26日掲載)

向井 修一・向井わらびークリニック

原因の把握が大切

子供で咳(せき)の訴えは多いのですが、印象深い例を書きます。エビとカニのアレルギーがある小学校3年生の男児が昼食後に突然咳が止まらなくなり救急車で搬送されてくる、と救急当番の私に連絡がありました。突然の咳なので、食餌アレルギーによる強い反応であるアナフィラキシーか、食べた物が気管に詰まったのかなと考えながら救急室に走りました。

その男の子は痰(たん)がからんでいない咳をしていて血液のなかの酸素は十分でしたが「苦しい」という訴えだったので、アナフィラキシーと考えてアドレナリンという薬を注射して気管支拡張剤の吸入をしましたが、咳は残りました。胸のレントゲンを撮りましたが正常で、食べた物が詰まった可能性はありませんでした。

強い薬を注射しても咳は止まらなかったので、今後アナフィラキシーが一層悪くなっては大変だと思って入院させました。入院後も痰のからんでいない咳はありましたが、保護者が面会に来るとその時間帯には咳がなく、また寝いってしまうと咳は全くないことが入院の二日後にわかりました。病院のスタッフが彼に近づくと「こんこん」と咳をするらしいので、試しに自分が足音を忍ばせて彼に近づいて突然「こんにちは」と言ったとたんに咳をし始めました。やっぱり。

なるほど、と私もわかりました。心因性の咳だったのです。両親にかまってもらいたかったのですね。その話を両親にして、話をよく聞いてあげるなど、彼との接し方を少し変えてもらったら咳は全くなくなり、それからすぐに退院しました。

子供の咳が長引けば、百日咳・マイコプラズマ・結核などの感染症、気管支ぜんそくの発作やアレルギー性鼻炎・副鼻腔(びくう)炎(蓄膿(ちくのう)症)などが多いと思います。咳が痰がらみかどうか、咳が多い時間帯はいつか、気管支拡張剤の吸入や内服薬に反応するのかどうか、や胸部レントゲン・コンピューター断層撮影(CT)の各種検査などで診断がついていきます。咳は原因ではなく結果ですから「咳は止めればよい」のではなくその原因探索が重要です。