医療機関は女性の多い職場です。そこで職員検診を担当していると、問診票の回答に明らかな男女差のある項目に気づきます。それは「疲れやすい」「眠い」「肩こり」「頭痛」という訴えが圧倒的に女性に多いということです。どうしてでしょうか。鉄欠乏の要因が多分に考えられます。
鉄は非常に大切なミネラルですが、毒になる危険もあるので非常に狭い範囲内で出し入れされています。成人男性だと、毎日約1ミリグラム摂取して、汗・便・尿・皮膚から毎日1ミリグラム排せつされます。
ところが、女性には生理出血という喪失が毎月30ミリグラムもあります。1日にすると尿・便・汗・皮膚からの1ミリグラムに加えて、さらに生理出血で1ミリグラム排せつされるので、毎日鉄の排せつ超過となり、慢性の鉄欠乏を招きやすいというわけです。
だからといって鉄を意識した食生活を送っている女性がどれほどいるでしょうか? 労働安全の面からも、鉄欠乏の解決は、女性の働きやすさを改善してくれるので、女性にはもっと関心をもってもらいたいのです。
ただ鉄は吸収されにくいという特徴があります。鉄補給の定番である小松菜やホウレンソウ等の植物由来の鉄は、吸収率が悪く、長年かかって少しずつ吸収されていきます。したがって、鉄欠乏が進んで貧血になっている方は、食事だけでは鉄の補給が追いつかないのです。そんな時には、鉄剤が使われます。ただ、鉄剤は吸収率の悪い鉄を大量に入れることによって、吸収量を上げようと作られているので、そのぶん胃腸粘膜への影響が強く、報告によっては半数以上の女性が気持ち悪くなったり、腹痛を起こしたりして鉄剤を続けるのを断念しています。
でも、吸収率が高い鉄があります。それが有機鉄と呼ばれるものです。レバーなどに多く含まれます。また、「ヘム鉄」という名前でサプリメントでも提供されています(ただし、ヘム鉄の含有量の高い良質のサプリメント)。これらは、苦痛なく鉄がとれます。鉄剤が服用できないとあきらめている女性にはぜひ知ってもらいたい情報です。