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糖尿病の薬物治療(2010年6月8日掲載)

下地 國浩・県立北部病院

膵臓の保護を重視

健康ブームのかたわら、診察室で繰り返される食事・運動・禁煙指導もいまだ緩められません。糖尿病発症早期の厳格な血糖コントロールは、神経障害、網膜症、腎障害等の発症を抑えます。さらに、その後の心筋梗塞(こうそく)、脳卒中の発症も抑えることが分かってきました。診断後の迅速な対応が、その後の人生を左右することになります。

血糖値を下げるインスリンを分泌する細胞は、膵臓(すいぞう)にあります。β細胞と呼ばれ、その数は糖尿病発症時には約4割にまで低下しています。従って、膵臓を保護する治療が望まれます。食事療法は、膵臓に余分な負担をかけません。また、適度な運動はインスリンの効きをよくします。その分、膵臓の負担が減ります。

経口糖尿病薬も、インスリンの効きを改善するメトフォルミンやチアゾリン誘導体などが優先される傾向にあります。また、膵臓を刺激してインスリンを分泌させるスルフォニル・ウレア剤も、血糖をよく下げます。しかし、長期投与は、膵臓を疲弊させてしまいます。消化管ホルモンであるインクレチン関連の製剤は、今話題の新薬です。食事の際の血糖上昇時のみ反応し、インスリン分泌を促進させ、血糖値を上げるグルカゴンの分泌を抑えます。げっ歯類では、β細胞の増殖作用が認められ、ヒトにも期待されています。

現在、インスリン療法では、1日4回行う強化療法や、混合製剤(長・短時間作用の2種類のインスリンを配合)を1〜3回注射するなどの工夫も展開されています。経口薬に加えて長時間作用のインスリンを1日1回注射する簡便な治療法も確立しつつあります。また、24時間血糖を測定できる装置も登場し、きめ細かいインスリンの調整も可能となりました。

2006年、京大の山中教授らにより、iPS細胞が作られ、自分の細胞から臓器を作成することが理論上、可能となりました。医療は日進月歩ですが、それを享受する私たちが心身ともに向上していくことも忘れてはならないと思います。