「先生、4〜5日前から咳(せき)と熱があるんです。最近階段を上ると息切れもするんですよ…。わたしは肺炎でしょうか?」。外来診療をしていると、このような訴えの患者さんが多く来院されます。
肺炎と聞くとどのような病気を連想されるでしょうか。わたしたちが診察する肺炎の患者さんの多くは肺の中(肺胞腔(ほうくう))で細菌が増殖して発症する細菌性肺炎ですから細菌を殺す抗生物質がよく効きます。
しかし中には全く違う原因で引き起こされる肺炎が存在し、その一つに薬剤性肺炎があります。
薬剤性肺炎とは文字通り「薬によって起こる肺炎」のことです。薬そのものが肺の細胞を直接障害することもあれば、薬に対する一種のアレルギーのような過敏な免疫反応が原因となる場合があります。
細菌感染ではないため抗生物質は効きません。比較的まれな病気ですが、近年たくさんの薬が開発、使用されるにつれて報告が増加しています。わたしたちは常にこの薬剤性肺炎の可能性も考えて診療にあたります。
症状は空咳、発熱、息切れが代表的ですが、かぜ症状と似ているため見過ごされ病状が進行して受診される方もおられます。診断にあたり大切なことは患者さんが(1)どんな薬を(2)いつごろから(3)どれだけ飲んでいるか―を確認することです。
薬剤性肺炎を起こす代表的な薬剤として抗がん剤・抗リウマチ薬・抗生物質・解熱鎮痛剤・漢方薬などがあるのですが、あらゆる薬で発症する可能性があります。
さらに薬以外にもサプリメント・自然食品・生薬などに含まれる成分が原因となることも少なくありません。そのため「最近飲み始めたお薬はないですか」という質問だけでは不十分で、食事以外に口にしているすべてを詳しく聞きだす必要があります。
世の中には医薬品のみならず薬草・自然食品など数多くの「薬」がありますが、すべての人に絶対に安全な「薬」は存在しません。「副作用は絶対にないから安心して飲んで…」という言葉にはご注意を。