心房細動とは心臓の上の部屋である心房がけいれん状態となり脈がまったくばらばらと不規則になる不整脈です。心房細動では心房の適切な収縮ができなくなるため心房内で血液のよどみができ、これが血の塊「血栓」となり脳などの血管を詰まらせてしまいます。
著名な野球監督が半身まひのためオリンピック監督を断念せざるを得なくなった原因や、沖縄サミットを招へいした時の総理大臣がご逝去された原因が心房細動による脳梗塞（こうそく）です。脳梗塞全体の約３０％が心臓病由来で、その大部分が心房細動とされております。
わたしたち循環器医が、日常的に最もよく遭遇する不整脈が心房細動です。その問題点は「息切れ」「ドキドキ感」「胸苦しさ・胸の圧迫感」「胸部苦悶（くもん）感」といった強い身体的自覚症状や、不安感・恐怖感といった心理的・精神的な側面まで悪影響を及ぼし生活の質が大きく低下することです。そして、症状の強さに関係なく、心不全や重症脳梗塞を起こす可能性が高いということです。また、発症初期には自然に停止する「発作性」ですが、無治療でいると持続時間が長くなる「持続性」、いかなる治療をしても停止しなくなる「永続性」へと進行します。
心房細動の治療法には薬物療法と非薬物療法がありますが、薬物療法のみでは心房細動を抑え切ることは困難です。非薬物療法には高周波カテーテルアブレーション治療があります。これは足の付け根の静脈から細い管（カテーテル）を心臓内に誘導し不整脈の発生源となっている部位に対して高周波をあて病巣を焼灼（しょうしゃく）（焼き切る）する治療法です。発作性心房細動の発生源の多くが心房から出ている４本の肺静脈と判明しているため、カテーテルアブレーションは肺静脈が出ている心房の周囲を焼灼することによって肺静脈を電気的に隔離することで遂行されます。手術時間は２〜３時間ほどで、術後２〜３日で退院可能です。安易な抗不整脈薬の投与は、かえって重篤な不整脈を引き起こすこともあるため、治療法に関しては不整脈の専門病院でご相談ください。