沖縄県医師会 > 健康の話 > ドクターのゆんたくひんたく > ドクターのゆんたくひんたく2009年掲載分 > 鼠径ヘルニア

鼠径ヘルニア(2009年10月6日掲載)

兼城 隆雄・沖縄赤十字病院

メッシュ手術主流に

ヘルニアとはなにかものが「飛び出した」状態を指す言葉です。ヘルニアは体のいろいろなところに起こります。太ももの付け根にある溝の内側にある鼠径(そけい)部に出てくるものを鼠径ヘルニアといいます。以前は脱腸と呼ばれ、多くの場合小腸がヘルニア嚢(のう)という薄い膜につつまれた状態で飛び出してきます。一般には高齢の男性(男女比は5〜10対1)に多く見られ、頻度としては外科の疾患では虫垂炎、胆石症に並び多く、厚労省の診療統計から推定すると1年に約10万件です。

原因としては高齢になって筋肉が衰えて弱くなり起こります。前立腺肥大症、便秘症を伴うことが多く、排便時、排尿時にりきむことにより、下腹部の筋肉に負担になり、発生してくると考えられます。もちろん若い30〜40歳前後でも生じることがあり、その場合には重いものを持つ仕事をしていたりすることが多く原因の一つと考えられます。また子供でも鼠径ヘルニアも見られますが、成人とは全く原因も異なり、治療法も異なってきますので割愛します。

治療としては手術以外にはありません。手術の方法は最近10年近くで大きく変わり、以前は筋肉を縫合修復していましたが、最近はメッシュという体の中に入れても害がない材料で作られているものを用いて行うことが多くなっています。筋肉縫合の場合とちがい緊張がかからない方法といわれており、手術時間は30分〜1時間程度です。再発率も低く、術後の痛みも少なく、入院期間も短縮しており、通常4〜5日間の入院で可能です。

緊急性があるのは、元に戻らなくなる嵌頓(かんとん)を起こした場合で腸がヘルニア門というヘルニアの出口にはまりこんだ状態です。ヘルニアが飛び出したまま戻らなくなり、痛みを伴う場合には、外科の専門医がいる病院を受診してください。嵌頓を起こす頻度は数%という統計もあり、頻度として高くありません。しかし緊急手術になり、腸を切除する可能性もありますので、脱腸が疑われる際は、一度外科を受診したらどうでしょうか?