梅雨が明けると、虫が耳に入ったという患者さんが増えてきます。耳の中に入った異物を外耳道異物といいますが、今回は耳に虫が入った場合のお話をしたいと思います。
「耳にごそごそ音がします。虫でも入っていないでしょうか」。中には「今、耳に虫が入って痛いです、取ってください」と駆け込んで来る患者さんもいます。「1週間前から耳やあごを動かすとごそごそ音がします」という訴えであれば虫の可能性は極めて低いです。多くの場合、髪の毛やそのほかつまようじの柄の部分のことが多いです。
耳に入り込む虫にはアリ、ガ、ゴキブリが多く見られます。耳に入った虫を取る方法として懐中電灯で照らすとか水や油を入れて殺すという方法がいわれておりますが、いずれも確実な方法ではないようです。確かに虫の種類によっては光を当てると光に向かって出てくることもありますが、私の経験では1例しかありません。多くの場合、アリやゴキブリはかえって光を避けて奥へ進んでいくようです。虫を殺すために水や油(料理用油)を入れてくる患者さんがよくいますが、外耳道に比べて小さいアリ程度なら効果はありますが、大きな虫では殺すまでかなりの時間がかかるでしょう。
この間、虫が暴れ鼓膜(こまく)が傷つく可能性があります。当然痛みも強くなるでしょう。注ぐ液体の温度は熱くても冷たくてもいけません。体温に近いぬるめを使用しないとめまいを起こすので注意が必要です。当然ながらこの方法は、中耳炎や、鼓膜に穴が空いた状態の鼓膜穿孔(せんこう)がある場合は絶対に行ってはいけません。以上の注意を守って行うならば、試してもいいかもしれません。
しかし、一番いい方法は耳鼻科医を受診することです。耳鼻科医では麻酔薬のスプレーを吹き付け、虫を即死させることも、痛くないように吸引器で一気に取り除くこともできます。耳に入り込んだ虫を盲目的に無理やり取り除こうとすると、かえって外耳道や鼓膜に傷をつけてしまいがちです。痛みを感じたら自分で取り除くのは中断して近くの耳鼻科医を受診してください。