最近、救急室で目にすることの多い疾患に高齢者の慢性心不全があります。慢性心不全は心筋梗塞(こうそく)、心筋症、弁膜症、高血圧などすべての心疾患の終末的な病態です。
高齢化社会の進んだ日本では慢性心不全の患者さんが増えています。とりわけ動脈硬化を原因とした狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患による慢性心不全患者が増えています。
医学生のころ、病理学の教授が血管の病理標本を前に「老いるとは何か?」とわれわれ学生に尋ねられたことがありました。ある優秀な学生が「老いるとは動脈硬化が進行することだ」と答えました。今から思うと、かの有名なアメリカの内科医ウイリアム・オスラー博士の「人は血管とともに老いる」という言葉を引用したのではと思います。
加齢、生活習慣(高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満、喫煙、運動不足、ストレス)で全身の動脈硬化がおこり、ひいては心臓の冠動脈に狭窄(きょうさく)、閉塞(へいそく)をきたして心筋に障害を与えます。障害のある心臓は血液を全身に送り込むポンプ機能が低下して、主要な臓器に酸素需要量に見合うだけの血液を送ることができなくなります。その結果として肺または体静脈系にうっ血をきたし生活機能に障害が出る、その病態を心不全といいます。
心不全の症状は、起坐呼吸(きざこきゅう)(横になるより座っている方が呼吸が楽な状態)、労作時の息切れ、体重増加、四肢の浮腫、食欲不振などです。診断はていねいな問診と診察で可能ですが、重症度は心エコー、心臓カテーテル検査などの画像検査や血液検査により評価します。慢性心不全の治療は、心不全の原因、重症度により多様で、治療方針の決定には循環器専門医と相談されることを勧めます。
心不全の悪化を予防するのに最も大切なことは自己管理です。風邪をひかない、塩分や飲水制限、過労を避ける、体重を保つ、規則的な服薬などです。
さらなる高齢化社会が予想される未来において、慢性心不全患者の入院を減らすには、患者、家族、医療関係者を含めたチーム医療が期待されています。