先日、ウォーレン博士の講演が沖縄でありました。ウォーレン博士といえば、胃の中にピロリ菌がすみ着いていることを証明し、2005年にノーベル医学・生理学賞を受賞した人です。これまで、細菌は胃の中に生息できないとの考えが医学会の常識でしたが、それを覆した世紀の発見によっていろいろな事がわかってきました。
ピロリ菌の感染率は、発展途上国で高く、先進国では低くなっています。日本では、60歳以上では感染率は70%前後と発展途上国並みに高く、40歳未満では20〜30%と先進国並みに低い状態です。これは、ピロリ菌が免疫力の未完成の乳幼児期に感染を起こすからです。
60歳以上の人の乳幼児期は、衛生状態が悪く高い感染率となったと考えられます。一方、衛生状態のよくなった現在の日本でのピロリ菌の感染は、特に離乳食期に多く起きます。ピロリ菌に感染している親との濃密な接触(離乳食をかみ砕いて与えるなど)によって起こります。
ところで、ピロリ菌はどのような病気を起こすのでしょうか。
一番多いのは、軽い胃炎です。しかし、症状がでるのは3割程度の人です。次に多いのは胃または十二指腸の潰瘍(かいよう)で、ピロリ菌感染者の2〜5%に起こります。胃または十二指腸の潰瘍のほとんどが、ピロリ菌が原因で起こります。潰瘍は薬で治りますが、高率で再発します。そのためピロリ菌に対する1週間の内服治療が勧められます。治療すると約90%の人がピロリ菌がいなくなり、潰瘍の再発が抑えられます。
また、ピロリ菌感染者のうち、胃がんが発生するのは約0・4%です。胃がんの発生率は非感染者の5〜10倍といわれています。さらに喫煙が加わると、胃がんの発生率が高くなります。
胃がんの発生には、体質(遺伝)・生活環境も影響していますので、胃がんになった人が血縁関係者にいるピロリ菌感染者は、ピロリ菌の治療をしていた方がいいですね。ピロリ菌感染が心配な人は、最寄りの医師と相談してください。