ドゥケルバン腱鞘炎(けんしょうえん)という病名を聞いたことがあるでしょうか。
手首の親指側に痛みや腫れがでる病気で、手首や親指を動かしたりすると強い痛みがあります。親指を伸ばしたり、開いたりする短母指伸筋腱(たんぼししんきんけん)と長母指外転筋腱(ちょうぼしがいてんきんけん)という腱が、腱鞘内を動くときに痛みが強くなります。腱鞘というのはちょうどトンネルのような構造になっていて、そのトンネルの中を腱がスムーズに動いて、関節を動かす仕組みになっています。親指や手首を動かす動作が増えるとトンネルの部分である腱鞘や腱に炎症が起こり、痛みや腫れが起こります。これが腱鞘炎の原因の一つになるのです。
親指をほかの4本の指で握り込み、ハンマーを打つように手首を小指側に曲げようとすると激痛が走り、これが診断法の一つになっています。女性に多い病気で、男性の約10倍多く発生します。
当院を受診する患者さんで圧倒的に多いのは、生後1年以内のお子さんを育児中の女性です。首のすわっていない子の入浴などのときに痛みが強くつらいようです。治療としてはまずは患部の安静、つまり手首や親指の動きを減らして腱鞘や腱に負担が掛からないようにすることです。ほかに外用薬、消炎鎮痛剤などの薬物治療、手首や親指を固定する装具治療、腱鞘部への注射治療があります。これらの保存治療でしばらくみて軽快しない場合には、手術治療になる場合もあります。
しかし、育児中の方は手を使わないわけにはいきません。結局は痛さを我慢していることも多いようです。ただ最近は父親の子育て参加も進んできているようで、母親が手首の痛みをこらえながら入浴させる、というような光景は減ってきているのかもしれません。使い過ぎによる痛みの基本的な治療は薬よりも装具よりも注射よりもまずはご家族の協力といえるのかもしれません。
一般的には徐々によくなっていくことが多い病気ですが、症状が強いときや長引くときにはやはり整形外科の専門医を受診するのがよいでしょう。