糖尿病や高血圧は、親がその病気であれば、子供も高い確率でなりやすいのはよく知られています。鼻炎の中でも、アレルギー性鼻炎は、親子によく似た症状が現れます。ところが、病状だけでなく、薬の効き方にも、親子に同じ薬がとくに効くことがあるものです。
2008年11月、11歳の男の子が漢方治療を目的に受診しました。幼児期からの鼻詰まりで、耳鼻科を数年来通院しているが、夜間何度も起きるとのこと。やせてはいるが色黒で、野球部のエース候補です。初回は葛根湯加川?辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)のエキス剤を処方しました。
2週間後の再診時に母親の語るところでは「飲んだその晩からぐっすり眠ったので、その効果にびっくりしました。でも4日目からまたもとの状態に戻ってしまった」とのこと。そこで、色黒、やせ、おなかの様子などから、柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)のエキス剤に変更しました。
これも素晴らしく効いて、1日2回が常用量のところを、夜1回だけの内服でも、ぐっすり眠れているようです。葛根湯加川?辛夷には9種類、柴胡清肝湯には15種類の生薬が配合されていますが、共通しているのは辛夷と甘草(かんぞう)の2種類です。辛夷は鼻閉に使われるので、これが有効成分かと考えています。
ところで、興味深いのは母親の話です。「自分も幼少のころから鼻詰まりがひどく、夜も寝苦しい。子供に漢方薬を飲ませるために包みを切ったら、そのにおいだけで鼻詰まりが良くなった。そこで試しに飲んでみたら、あまりにも鼻の通りが良いので、かえって息苦しくなってしまった。なにしろ鼻が詰まった息の仕方で何十年も生活してきたので、正常な呼吸法が分からなかった。自分は、葛根湯加川?辛夷も柴胡清肝湯のどちらも効いている」と。親子の体質が似ることを考えて、母親にも柴胡清肝湯を飲んでもらっています。
体質や体調を重んじる東洋医学では、親子や兄弟姉妹の治療の際には、体質の似ていることを参考にして、漢方薬を選択することもしばしばあります。