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聴診器(2009年2月16日掲載)

玉井 修・曙クリニック

多くの身体情報取得

「さあ、それでは胸の音を聴かせてください」

そう私が言って、おもむろに聴診器を患者さんの胸に当てると、私の耳には多くの音が聴こえてきます。聴診器を伝って肺の音や心臓の音、おなかの音や、血管の音が聴こえてきます。

お医者さんという言葉を聞いて、聴診器を連想する方も多いのではないでしょうか。最近の医療ドラマでも、格好良く聴診器を首に巻いて闊歩(かっぽ)する医師の映像を見ますので、聴診器はお医者さんを象徴するアイテムという印象が強く根付いていることがうかがえます。

私は時々患者さんから「その聴診器で何が分かるのですか?」と質問されることがあります。何だかもったいぶって不思議な器具を胸に当てている医者が、一体何を聴いているのか興味津々のようです。

私たち医師は格好をつけるために聴診器をぶら下げているのではなく、意味もなく患者さんの胸の音を聴いているのでもありません。聴診器から聴こえてくる音には非常に多くの情報が詰まっています。肺の炎症、気管支の閉塞(へいそく)、心臓の状態、腸の運動など聴診器一本から伝わってくる情報量は非常に多く、簡便かつ安全に行える検査として聴診という診療技術は昔も今も全く廃れることはありません。毎月通院している患者さんに対し定期的に胸の聴診を行い、心音がどのように変化しているのかなど、医者は細かく記憶しています。

患者さんのお顔を見ると、心臓の雑音のイメージがわいてくることもよくあります。風邪です、と言ってやって来た患者さんの聴診をした瞬間に心臓弁膜症による心不全が発見される場合もあります。実は心臓弁膜症による心不全も風邪によく似た咳(せき)を起こすので注意が必要なのです。

保育園の健診で泣き叫ぶ子供たちの聴診をしながら、不思議そうに私の聴診器を見詰める子供たちがいました。私が聴診器を子供たちの耳にあてがって、私の心臓の音を聴かせてあげるととてもビックリした様子で、喜んでくれました。心臓の音を聴く機会があれば、命を大切にしようという発想につながれば良いし、生命の神秘に魅せられる子供もいるかもしれません。

クリニックにはさまざまな患者さんがやってきます。体の衰弱した方に、聴診器を当てながら会話すると不思議と心が通じ合うような気がします。聴診器を当てながらニコニコして、だいぶ良い音になってきましたねとお話をすれば、患者さんはとても満足そうに笑うのです。聴診器は重要な検査器具でもありながら、場合によっては治療の一翼も担っているのです。