沖縄県医師会 > 健康の話 > うちなー健康歳時記 > うちなー健康歳時記2009年掲載分 > 妊娠中のシートベルト

妊娠中のシートベルト(2009年1月12日掲載)

村尾 寛・県立南部医療センター・こども医療センター

賛同広がり、法制化

従来、日本では道路交通法施行令を根拠に、妊娠中はシートベルトを着用しないよう指導されてきました。しかし私は自身の研究結果から、これに異議を唱(とな)える論文を1998年に発表しました。その後、自動車ジャーナリストらと共に「妊婦のシートベルト着用を推進する会」を結成し、2001年に日本記者クラブで記者会見を行いました。

呼び掛けに最も早く反応したのは自動車業界でした。某自動車メーカーの東京本社に呼ばれ、主要メーカーの代表者を一堂に会しての勉強会でレクチャーを行いました。程なくしてメーカー各社の新車の取扱説明書において、妊婦もシートベルトを装着すべきである旨の改訂作業が、順次行われ完了しました。

一方で全国紙をはじめ、JAFの雑誌、市販の商業自動車雑誌やマタニティ雑誌などマスコミ関係者も強い関心を示し、延べ数十回の取材を受けました。東京から沖縄まで取材に訪れては、毎年特集記事が組まれました。ついには日本産科婦人科学会本部もこれを認め、医師向けに出版された「産婦人科診療ガイドライン」において、妊婦もシートベルトを装着するべきである事が明記されました。

昨年、「妊婦のシートベルト着用を推進する会」の仲間が国会議員の勉強会に呼ばれ、話をしました。そして、08年6月の国会内閣委員会でこの問題が取り上げられ、警察庁交通局長より従来の方針の見直しが明言されました。続いて同年9月には、警察庁より妊婦のシートベルト装着推進に向けての実施要綱が公表されました。

こうして10年前に私一人の問題意識から始まった活動は賛同者の輪が次々に広がり、ついに政府の方針転換をもたらしたのでした。ただし、ご注意いただきたいのは「妊婦独特のシートベルト装着法」を習得する必要がある、ということです。これは事故の際に、ベルトによる子宮への圧迫が3分の1〜4分の1になる極めて重要な方法です。

具体的には(1)腰ベルトは妊娠子宮の膨らみを足側に避け、腰骨の最も低い位置、すなわち両側の腰骨の突起部分〜下腹部の恥骨前を結ぶ線上に通す。腰ベルトは妊娠子宮の膨らみを決して横切ってはならない(2)肩ベルトは両乳房の間を通って脇腹に通す。肩ベルトも妊娠子宮の膨らみを横切ってはならない(3)妊娠子宮の膨らみとハンドルの間に若干の空間ができるよう、座席の位置を前後に調節する―というものです。