高齢化が進むにつれ、抗加齢医療が注目を集めています。十代から萎縮(いしゅく)や退化が始まる、免疫機能を担う胸腺や松果体(しょうかたい)については、加齢と老化の意味が異なりますが、六十歳以降では加齢と老化はほとんど同じ意味を持ちます。
抗加齢医療とはどのようなものなのでしょうか? 目的は“生活の質”の向上と、身体と脳のバランスが取れるようにし、健康寿命の延長と達成にあります。老化を止めることはできませんが遅らせることは可能です。病気を予防し健康的に長寿を享受することが、抗加齢医療の目指すところです。
さて、抗加齢療法として、食事は一日当たりのカロリー摂取量を八百―千五百キロカロリーに、運動は一週間に百五十分のウオーキングを勧めています。また、抗酸化療法、ホルモン補充療法、免疫強化療法がありますが、規制が厳しい日本では抗酸化療法以外を老化防止のために行うことはできないのが現状です。
ところで抗酸化療法は、老化の根源である活性酸素や過酸化脂質を防ぐことを目的としています。主にサプリメントでビタミンCを千ミリグラム、ビタミンEを四百IU(二百六十七ミリグラム)、ビタミンAを一万IU(三千マイクログラム)と補酵素Q10を五十ミリグラム―を一日に摂取します。しかしこれらは身体の老化に対するものであり、脳の老化に対する療法も併せて行わなければ意味がありません。
脳の容量は約千四百cc、体重比は三十八分の一です。身体の細胞六十兆個のうち脳が占める細胞は約一千億個ですが、消費カロリーは全体の25%を占め、百兆もの情報を記憶できます。脳の老化は記憶力の低下、環境への適応の鈍化だけでなく、短気やうつ状態など情緒的および心理的な変化や認知症として現れます。
例えば、冷蔵庫をノックして開けたり、気が付けば靴べらを手に歩いていたりすることです。
二十代後半から始まる一日十万個の脳細胞が破壊・消失していくことを自覚しながら、破壊や消失を十倍に加速させるアルコールの摂取量を控えなければ、脳の老化を遅らせることはできません。
脳細胞は老化によって破壊・消失の一途をたどると思われてきましたが、近年、知的刺激を海馬(かいば)に与えることで脳細胞が増殖・増加し、活性化することが分かりました。新しい情報の長期記憶に重要な役割である海馬への刺激としては、ヨーロッパ近代絵画や秀作映画などの鑑賞、クラシック音楽など感動を覚えることが最適です。これらは運動のウオーキングに対して「脳のウオーキング」と称されます。一日六十―百二十分の実行で約一カ月後には効果が実感できるでしょう。
質の高い健康寿命を全うするよう、互いに努めていきたいものです。