鼻中隔(びちゅうかく)(鼻腔(びくう)を左右に分ける隔壁(かくへき))は、成人のほとんどが多少なりとも曲がっています。その程度は個人差がかなりあり、曲がりが強い場合は、鼻中隔湾曲(彎(わん)曲)症と診断されます。成長期以前の子供はあまり曲がっていませんが、最近はアレルギー性鼻炎が強く、鼻中隔湾曲を伴っている子供も結構見かけます。
では、鼻中隔はなぜ曲がるのでしょうか。それには諸説あります。ヒトは進化の過程で脳が発達しました。逆に、あごや顔全体の前方へのせり出しは小さくなります。そのため、鼻腔内にひずみが加わるとの説があります。それだけなら、頭でっかちの子供の方が曲がりそうです。
しかし実際には、成長期で外鼻が高くなる時期に、外鼻の骨や軟骨と、鼻内の鼻中隔の成長速度が違ったり、アレルギー性鼻炎で鼻腔粘膜の圧力が少しずつ加わったりすることで、徐々に湾曲が強くなると思われます。もちろん外傷が原因で曲がる場合もあります。日本人は、左に湾曲している場合が多いと言われています。
最近は、胃や食道の内視鏡検査も、鼻から入れることが多くなりました。実は耳鼻咽喉(いんこう)科では、すでに三十年以上も前から、喉頭を観察するために、鼻腔から軟性内視鏡を挿入しています。
以前、その直径は、現在の経鼻式胃内視鏡(六ミリ程度)と同等でしたが、今では三―四ミリ程度まで細くなっています。
誰しも、口の中に指を入れて吐きそうになった経験をされていると思います。鼻から内視鏡を挿入することで、咽頭(嘔吐(おうと))反射はだいぶ回避されるようになりました。
しかし、問題なのは鼻中隔湾曲が強いと、内視鏡も入りづらくなります。特にアレルギー性鼻炎があると、鼻粘膜が敏感で、鼻汁やクシャミが誘発されます。
軟性内視鏡が現れるまでは、気管食道科医(主として耳鼻科医)が、硬性(金属製)内視鏡を挿入して食道の異物などを取っていました。四十センチ以上もの金属管を、大道芸人のごとく食道下端(かたん)まで挿入しました。実際、最初の挿入は剣のみの大道芸人だったとのことです。
今や軟性内視鏡の発達で、食道や気管の内視鏡検査は内科や外科が主体となり、今年四月の標榜(ひょうぼう)医の改訂で、気管食道科は新たに看板を掲げることはできなくなりました。しかし、鼻腔内の構造は耳鼻咽喉科医が得意です。食道がんと下(か)咽頭がんの関連も深く、経鼻式内視鏡検査の一部は、耳鼻科医が担うことがあるかもしれません。