皆さんは「一次救命処置」をごぞんじでしょうか。突然心臓の動きが止まった(心肺停止)人に対して行う最初の治療のことです。めったにありませんが、突然心臓が止まるというのは、何の病気もない健康な人にも起こり得ます。お年寄りにも若者にも、子供や赤ちゃんにも起こることです。
近くにいる人の心臓が止まるなどという怖いことは、普通は考えたくないと思います。しかし、ほかの多くの病気とは違い、起こってから考えていては間に合いません。大切な人の命を守るためには、普段から内容を知っておき、万が一のときに実行できることが求められます。
皆さんに一次救命処置が求められる理由は、心肺停止では、最初の対応が最も重要だからです。心肺停止状態では、脳を含めて体全体への血液の流れ、酸素の運搬が止まってしまいます。これを再開させる応急処置が一次救命処置ですが、開始が遅れると、その分だけ生存率(生き残る可能性)が下がっていきます。
ある研究によると、開始までの時間が二分以内であれば、生存率は90%、四分で50%、五分で25%といわれており、時間との勝負であることがわかります。救急車が到着するまでの国内平均時間が六分台ですから、近くにいる人の対応が欠かせないことがわかっていただけるでしょう。
一次救命処置は、近くにいる人がその場でできるように、内容はできるだけ単純に決められています。第一に、呼びかけたり、軽くたたいたりして意識を確かめます。第二に、意識がないようなら、大声で周りの人の助けを呼んで、一一九番してもらいます。第三に、呼吸をしやすいように、頭や頚(くび)にけががなければ、下あごを持ち上げて頭をそらすような格好にします。その状態で呼吸をしているか確かめます。第四に、普通の呼吸をしていなかったら、心肺停止と判断します。第五に、人工呼吸をします。口から口へ息を吹き込むことを二回します。
次に、心臓マッサージをします。左右の乳首の間の「胸骨」の部分を、両手で力強く繰り返し押します。三十回は続けます。その後、状態を見ながら人工呼吸二回と心臓マッサージ三十回を繰り返します。
最近では「AED」という、いわゆる電気ショックの機械を置いてある施設も見られますので、可能な状況であればAEDを使用することも重要です。
これを読んだだけで実行できる人はいませんし、それぞれの行為には、効果を挙げるための正しいやり方があります。しかし、意外に簡単そうだと思った人もいらっしゃるのではないでしょうか。これだけのことが、皆さんの大切な人の命を守る大きな手助けになります。
消防署や各種団体は、一般の方が一次救命処置を習えるよう、定期的に講習会を開いています。半日から一日間の参加で、正しい知識と方法を身につけることができます。