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心臓(2008年5月13日掲載)

長田信洋 県立南部医療センター・こども医療センター

子どもは元気に拍動

大人はいたわりが肝心

小児の病気を語るとき「子どもは大人のミニチュアではない」とよくいわれます。代謝や内分泌、免疫、運動機能、かかりやすい病気など、いずれも子どもと大人は大きく異なるからです。

実は心臓についても同じことが言えます。“子どもの心臓は大人の心臓のミニチュアではない”のです。

第一の違いですが、子どもの心臓は右心室の筋肉が厚く、左心室と同等か、それ以上の収縮力を持っています。生まれて間もないころは、まだ肺血管の抵抗値が高いため、肺へ血液が流れにくく、肺へ血液を送る右心室は必然的に丈夫にできています。それに比べ、大人は肺血管抵抗値が下がっていますので、右心室は左心室の二〜三割程度の収縮力で十分やっていける環境にあります。そのため、右心室の筋肉はとても薄く、左心室と同じような収縮力はありません。見方を変えれば大人の右心室は退化しているのです。

第二の違いは、子どもの心臓にはほとんど脂肪がついていません。大人の心臓はやせ型の人でも余分な脂肪が付着しています。子どもの心臓は大人と比べると仕事量が多いため、脂肪がつきにくいのです。七〇キログラムの人が一日に摂取する水分量は約二〇〇〇ミリリットルで、これは体重一キログラムあたり約二八ミリリットルに相当します。それに対し、七キログラムの小児の一日水分摂取量は、約七〇〇ミリリットルで、体重一キログラムあたり一〇〇ミリリットルに相当します。

つまり、子どもは相対的に水分摂取量が多く、体全体に水分を循環させるために多くのエネルギーを使っている心臓には、脂肪がつく余地がないのです。

第三の違いは、心臓の病気の種類と特徴です。小児の心臓病は、心臓の構造そのものが生まれつき正常ではないために問題が生じているのがほとんどです。しかし大人の心臓病は、もともと正常な各パーツが傷んだり、機能が落ちてきたための病気といえます。そのため、小児の心臓手術は、心臓の内部や外部構造を作りかえる手術が主で、大人の心臓手術は、弁や大血管など傷んだパーツを人工物と取り換えたり、狭心症などのように、冠動脈のバイパスを行う手術が大半を占めます。

手術室で直接心臓を見て感じることは、子どもの心臓はとにかく無邪気で元気です。心室の壁に大きな穴が開いていたり、入り口や出口が閉じていたり、右室と左室がひっくり返っていたり、心室が一つしかなかったり、チアノーゼが強く酸素不足であったりと、それこそ動けるのが不思議なくらい大きなハンディを負っているのですが、元気でビンビン拍動しています。

一方、大人の心臓の動きはモッタリしていて、時々よろけて不整脈を起こしたりします。何十年も休みなく働き続け、疲れ果て、中には心房がけいれんを起こす心房細動を発症しているのもあります。そういう時、ご主人様の不摂生で、心筋梗塞(こうそく)の原因にもなる冠動脈狭窄(きょうさく)などを起こされると、心臓の働く気がうせるのも当然といえるでしょう。

これをお読みの皆さん! たまには自分の心臓にも思いを寄せて下さい。メタボリックな食生活や、喫煙の習慣を断ち切れない人は、今に心臓から絶縁状をたたき付けられますよ。