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高次脳機能障害(2008年4月15日掲載)

大田裕一 平安病院

県内でも支援事業推進

ネットワークづくり目指す

読者の皆さんは「高次脳機能障害」をご存知でしょうか。これは、交通事故などで脳に傷を受けたり、水の事故で脳に酸素が不足してしまったり、脳血管障害などの病気によって脳に損傷を受けたりした結果、高度な脳の働きが損なわれた状態と言えます。

人間の脳は、ほかの動物と比べて特に発達しており、高度な働きをします。「認知機能」と呼ばれるこれらの機能が、外傷などで低下した状態が高次脳機能障害と考えられます。

具体的な症状としては、注意力や集中力が低下して、気が散りやすくなったり、ボーッとしたりします。さらに記憶が損なわれたために、どこに行こうとしたのかを忘れたり、同じことを何回も話すこともあります。そのほか、将来の見通しが立てられなくなったり、行動の結果を予測できなくなったりもします。障害によって性格が変化し、そのことで起こる周囲との摩擦によって、怒りっぽくなる、思い込みが激しくなる、コミュニケーションが取りづらくなるなど、人間関係でさまざまなトラブルが生じやすくなります。

これらの症状は外見上分かりにくく、当事者にとっては、日常生活においてかなり支障があるにもかかわらず、「ちょっと変な人」と見られるだけということもあります。さらに、検査でも見逃されることもあることから「見えない障害」と呼ばれています。

最近話題になっている「発達障害」と症状が似ているところもありますが、発達障害や先天性疾患は「高次脳機能障害」の定義からは除外されています。

高次脳機能障害はこれまで、社会的認知度が低かったことから医療や福祉が適正に受けられない時期がありました。しかし、日常生活および社会適応の困難さに当事者自身やご家族が立ち上がり、行政に働きかけた結果、二〇〇一年以降、ようやく厚生労働省も研究を開始し、支援普及事業を進めています。

〇六年十二月からは、障害年金の申請を受け付けるようになりました。また自賠責保険や労災年金でも、この障害に対する認定基準が設けられました。

国からの通達を受け、沖縄県も高次脳機能障害支援普及事業を行っています。拠点機関を定め、専門相談や人材育成、ネットワークづくりを行い、障害者の支援を確立することを目標としています。

専門病院では専門家がチームを組んで診断(診察、検査)や薬物治療、カウンセリング、認知リハビリテーション、デイケアを始めています。治療では問題行動などに対しては一部薬物も使用します。しかし、この障害はそれよりも、リハビリテーションやカウンセリングが有効です。神経心理学的テストで障害の状態を評価し、認知機能を改善させるトレーニングを行います。また、じっくり話を聞くなどして感情面へのアプローチも行います。もちろん福祉、就学、就労への援助もできるように体制を整えているところです。

事業はまだ始まったばかりですが、医療現場に携わる者が協力し、さらに県民の皆様の理解を得ることで、高次脳機能障害の当事者の方々に適正な支援がなされるようにと期待しています。