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肺犬糸状虫症(2008年3月4日掲載)

川畑 勉(国立病院機構沖縄病院)

肺で肉芽腫形成の可能性も

感染ペットから蚊が媒介

「肺犬糸状虫症(はいいぬしじょうちゅうしょう)」って聞いたことがありますか? 犬糸状虫(フィラリア)は本来、犬の心臓に寄生する線虫(寄生虫)で、犬糸状虫症は、まれではありますが人間にも起こる、人畜共通の感染症の一つです。では、どうやって人の体に侵入し、感染するのでしょうか?

それは、中間宿主である蚊が媒介します。まず、蚊が線虫に感染した犬から吸血した際、犬糸状虫の幼虫が蚊の体内に入ります。その蚊が人を刺した際、蚊の体内で発育した感染幼虫が人の体内に侵入するのです。

しかし、人は好適な宿主ではないため、犬の場合に見られるように成虫までは成長しません。ほとんどは、侵入組織内や体内を移動中に死滅してしまいます。死滅した虫の一部が血流で肺にいたると、末梢(まっしょう)肺動脈内で塞栓(そくせん)を起こし、肉芽腫(腫瘤(りゅう))を形成します。その影がレントゲン写真やCT写真で肺がんなどの腫瘍(しゅよう)性病変とよく似た形態をとるため、特に肺がんを疑われ、手術になることが多いのが現状で、術後に肺犬糸状虫症と診断されるのがほとんどです。

肺犬糸状虫症は、約70%は無症状ですが、肺の血管に塞栓を起こした場合には、せき、血たん、発熱、胸痛などの症状を伴うこともあります。

本症の発症頻度と犬の飼育歴は無関係です。問題は、飼い犬や野犬のフィラリアの感染率です。

二〇〇一年に発表された全国調査では、不完全に予防された飼い犬では、34・6%、非予防犬では、42・1%がフィラリア症に感染していたとの報告があります。しかも十年前に比べ、感染率は上昇していたとのことです。予防がなされていなければ、それだけ人への感染リスクも高くなります。そして、媒介する蚊の数、蚊に刺される回数にも相関すると考えられます。

診断は、肺がんと同様、気管支鏡検査や経皮肺生検を行います。しかし、フィラリア症に関して言えば、このような検査で小さな虫を採取することは大変困難で、確定診断に至ることはほとんどありません。CT写真などの特徴から術前にフィラリア症を疑えば、画像診断に加え、免疫学的検査が有効です。

確定診断がついた場合の治療は、虫が人体内で長期間生存、成長し続けることはないので、経過観察でもいいといえます。しかし、肺がんなどの悪性疾患も否定できない場合には手術を行い、病理学的確定診断をつける必要があります。その場合には、患者さんの体への負担が少ない胸腔(きょうくう)鏡下手術が有用です。多くは肺の末梢(まっしょう)にできるためほとんどの場合、肺部分切除が可能です。癒着などがなければ、小さな傷で手術時間も短くてすみます。

今回は肺犬糸状虫症について書きましたが、犬糸状虫は、皮下、腹腔(ふくくう)内などへの寄生も報告があります。また、ネコにも感染(寄生)することも知られており、注意が必要です。