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インスリン・アナログ(2008年2月12日掲載)

長澤慶尚(北部地区医師会病院)

超速効型も一般的に

注射ためらい悪化は悲しい

最近、糖尿病の治療では、さまざまなアナログ型インスリンが使用されています。

ところで皆さんは「アナログ」と聞くとどんなことを思い浮かべるでしょうか。

中年以上の方でしたらデジタルとアナログという言葉から、CDとレコードを思い浮かべるかもしれませんし、時計の表示で数字が出るタイプと針が動くタイプを連想するかもしれません。

本来のアナログ(analogue)の意味は「類似するもの」とか「同類のもの」ということです。

今回お話しするのは、「インスリン・アナログ」、すなわち「インスリンに類似したもの」についてです。

インスリン治療には長い間、牛や豚の膵臓(すいぞう)から抽出された精製インスリンが使われていました。

しかし、精製インスリンは、残念ながらアレルギーを起こしやすく、また、免疫反応のために抗体ができやすく、やがて効果が低下するといった問題がありました。

約二十年前に遺伝子工学技術の恩恵で、ヒト型インスリンが作られるようになり、前述の問題は解消されてきました。しかし一方で、新たな問題も生じました。食事用のインスリンは、食事の三十分前に注射しなければ効きが間に合わないことと、副作用がなく効果が続く製剤が手に入りにくかったことです。

そのため患者さんは、食事を前にして待たなければならなかったし、食後の血糖値を下げようとインスリンを増やすと、その後で効き過ぎて低血糖という副作用に見舞われる不都合を強いられていたのです。

医療にも生活の質(QOL)が求められるようになり、新たに登場したのが「インスリン・アナログ」です。ヒトインスリンの一部の構造を変えることで、注射してすぐに食事をしてもよい、超速効型インスリンや、切れ目なくゆっくり効き、低血糖の副作用の少ない持続型インスリンが一般的に使えるようになりました。

もちろん、アレルギーを減らすために、ヒトのインスリンを作ったのに、わざわざその形を変えているので、安全かどうかを確認するのにとても長い時間待たなければいけませんでした。

しかし現在、世界中でこうしたインスリン・アナログが使用され、幸い大きな副作用はなく、多くの患者さんがこの治療の効果を享受されています。

そうは言っても、日本で使えるインスリンは、いまだ注射です。

欧米ではすでに、ぜんそくの薬のように、吸い込む形態のインスリンも使われていますが、肺への副作用がないことなど、日本人に対する安全性が確認されるまでは、わが国で使用はできません。

糖尿病治療の特効薬としてインスリンが果たす役割は大きいのですが、まだまだ面倒だとか、痛みが怖いといった理由で注射をためらって血糖コントロールを悪化させてしまう方が大勢居るのはとても悲しいことです。

一日でも早く注射しないで済むインスリンが利用できるようになることを期待しています。