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冬の漢方(2008年2月5日掲載)

仲原靖夫(仲原漢方クリニック)

体を温める葛根湯

人参、附子は新陳代謝高める

一年で最も寒い季節になりました。

恒温動物である人間は、真夏の猛暑日でも、真冬日でも常に体温を一定に保つことによって健康を維持しています。暑い夏は汗をかいて体温を下げようとしますが、激しい運動に際して水分補給が十分でない脱水の状態では、効果的に体温を下げることができずに熱中症になります。逆に寒い冬は、しっかり汗腺を閉じて熱が逃げないようにして体温を維持します。

沖縄の冬の気温は、寒い日でも一五度前後、本土に比べると一〇度近くも高くなり、そんなに寒くはありません。ただ、強い北風が加わると体感温度はぐっと下がり、沖縄の冬も寒いと感ずる人は少なくないようです。

冬の気候の特徴は乾いた寒い北風に集約されます。それは人体に対して、体温を奪い、気道や皮膚を乾燥させる作用をもっています。風向きが北に変わるとのどを痛め、風邪をひく人やぜんそく発作が増えることがそれを示しています。

特にお年寄りは新陳代謝が低下して体を温める力が落ちること、体の水分量が少ないため、乾燥や寒さに対する体温調節機能が弱いと言われています。従って保温、保湿に十分心がける必要があります。気道が乾燥しないようにマスクの使用を考慮する必要があります。

寒さに対応できなくなったとき、体は風邪の症状を起こしてきます。寒気がきて体が震え、それで熱を発生させ、十分体温が上がると汗をかいて通常の体温まで解熱して治るのです。

体温が十分上がりきれないとき、更に体を温めて汗を出すようにするのが葛根(かっこん)湯(とう)など漢方の風邪薬です。お年寄りなどでは新陳代謝をあげる附子(ふし)(トリカブト)の入った麻黄(まおう)附子細辛(さいしん)湯が必要になります。このように風邪は冷えた体を温めるための非常手段と見ることができます。インフルエンザの予防接種をしたから大丈夫と気を抜かず、体温調節を助ける生活を心がけることが大事です。

また湿度が低いため皮膚が乾燥しやすくなります。乾燥型のアトピーや皮膚乾燥ぎみの人のかゆみがひどくなりがちで、保湿剤などで皮膚の潤いを保つように心がける必要があります。

また冷え症の方にはつらい季節です。手先足先が冷える場合はまだしも、腰や腹が冷えると毎日がつらくなります。胃腸が冷えると下痢し、元気もなくなり深刻です。新陳代謝を高める人参(にんじん)や附子の入った漢方薬が必要になります。体を温める温野菜を煮て食べ、果物や生もので腹を冷やさないことも大切です。

自然界で動物は実りの秋に木の実をしっかり食べ、皮下脂肪を蓄え冬に備えます。植物は寒さに弱い葉を落とし、身軽になって春を待ちます。人間の場合も衣食住に注意し体を冷やさないようにするのは当然のことですが、その前の夏場に体を冷やさないような、心がけが必要です。

夏場に体を冷やして風邪をひいてこられる方には「今年の冬は風邪で難儀をするはずです。来年の夏は冷たいものを控え冬に備えましょう」と気の長い話をしています。